
第7章 Saint Valentine’s Day

無事くすぐり攻撃から解放されると、脚の力が抜け、床に崩れ落ちてしまった。
「……さっき話したことは嘘です……ごめんなさい」
「なんとなく分かってましたよ。ほら、いつまでも床に座り込んでいないで椅子に座ってください」
一織が手を伸ばしてくれる。でも……
「……さっきの誰かさん達の攻撃のせいで腰が抜けて立てないの」
じっと環と三月の顔を見ると、すっと目をそらされた。
「龍。連れてって」
龍に向けて両手を広げる。
龍のいいところはなんだかんだ優しいところ。
恥ずかしがりながらも私をお姫様抱っこで椅子へ運んでくれた。
「……本当は、ちゃんとみんなの分作ったの。でも、みんなはアイドルだから沢山のファンがいるでしょ……?バレンタインになるとすごく手の込んだプレゼントが沢山届く………そう思うと、私が作った物なんて渡せないなって今更思ったの。だから、嘘、吐いた………」
静かな空気に耐えられず私はまた口を開いた。
「ごめんなさい……。私なんかがみんなと仲良くできてることでもう十分なはずなのに……だめね、独占欲が出てきちゃう。あ、でも、安心して。みんなが一番大切なのはファンだってちゃんと分かってるから。迷惑はかけない。……頭、冷やしてくる」
まだおぼつかない足取りで部屋から出ようとする。
すると、後ろからだけかに抱きしめられた。
「百合……『私なんか』なんて言うな……」
「が、く……」
「お前が俺たちのことちゃんと理解してくれてることは分かってる。それに、これっぽっちの独占欲なんか可愛いもんだぜ」
「そうだよ、百合ちゃん。考え過ぎは良くないよ。明るくない百合ちゃんなんてらしくないよ」
「龍……」
「確かにボクらの一番大切なものはファンだ。でも、それはアイドルの時であって、プライベートなら少しくらい独占してもいいよ」
「そーそ、てんてんの言う通り。プライベートまで縛られたくねぇし、俺らは俺らの大切にしたいもんを大切にしたい」
「みんな……優しすぎるよ……」
「今日のワタシたちはあなただけのプリンスです。さぁ、プリンセスあなたの望みは?」
楽の両腕が私から離れる。
振り向くと笑顔のみんながいた。
「わ、私の気持ちを込めたこのチョコを受け取ってほしい。それから、今日だけでいいから私をみんなの一番にして!」
「「「おう!」」」
みんなの快い返事が部屋中に響いた。
