
第7章 Saint Valentine’s Day

まずいまずい。
やばい、これは本気でやばい。どうしよう。
「なぁ、環。これ、なんか甘い匂いしない?」
「んー……確かに。王様プリンじゃないけどいい匂い。うまそう」
「環!開けてみようよ!」
「おっす!」
「ま、待って!だめ……!」
時既に遅し。
環と陸の手に握られているのは四角い箱。
………私が12人に用意したバレンタインのチョコだ。
「環ー?どうかした?」
「ももりん。なんかチョコ入ってた」
「Oh……!ワタシ達の名前書いてあります。バレンタインチョコレートです!」
「……これ、彼女の字じゃないですか?」
「そんなわけねぇだろ。なぁ、和泉兄?」
「そうだよなぁ……」
寒いはずなのに変な汗が背中を流れていく。
そっと部屋から出ようとすると、両肩に手が置かれた。
「百合ちゃん」
「ど、どど、どうしました?千さん」
「百合さん」
「て、天まで」
「「どういうことか説明してもらえる?」」
イヤァァ!という叫び声を必死に堪えた。
脚がガクガクと震える。
なぜだかみんなの笑顔が怖く見える。
でも……本当のことなんて恥ずかしくて言えない。
「意地でも言わないつもり?」
「………」
「それならこっちにも策があるよ。龍、彼女を押さえてて」
「えっ!俺!?……ごめんっ」
龍が謝りながら私を後ろから捕まえてくる。
何をされるのか困惑していると、環と三月が私に近寄ってきた。
「ごめんな、百合。ま、お前が吐けばすぐに止めてやるから」
「そーそー。吐くまでするから覚悟しとけよ」
私の身体に向かって2人の手が伸びてくる。
「や、うそ……だ、だめ……ひゃぁっ!」
「おらー!くすぐり攻撃だー!」
「ゆりっち、くすぐられるの嫌いだもんな」
「ひ、や、くぅ……も、やめ、あっ…だめ、おかしく、なっちゃうからぁ……!」
……念の為言っておくが、私はくすぐられているだけである。
私はくすぐられるとこういう声が出てしまうのだ。
「………大和さん」
「待て、ソウ。おまえの言いたいことはよく分かる。だがな、俺に振るな」
「これは大丈夫なんでしょうか……?」
「おまえさん、スルースキル上がったな…」
他のメンバーが話している間にもくすぐり攻撃は続けられる。
「あ、あ、んっ……!わ、わかった……いうからぁっ、ほんとのこと!」
私がそう言うとくすぐり攻撃は一瞬で収まった。
