第7章 Saint Valentine’s Day
「ちゃ、ちゃんとね、みんなにチョコ渡そうと思って、何作ろうとか、どんなラッピングにしようとか、色々考えてたんだけど……今年は忙しくて作れなかったの……」
ごめんなさい。その声は思っていたよりもずっと小さくなってしまった。
みんなの反応を見るのが怖くて、顔すら上げられない。
「ら、来年はちゃんと用意するから……ごめんなさい……」
さっきまで耳が壊れそうなくらい騒がしかったのが嘘だったのかと思うくらい、部屋は静まり返っている。
やっぱり顔は上げられず、下を向いたままでいると、頭に優しく手が乗せられた。
「そ、壮五……」
「気にしなくていいよ。今日はチョコの有る無しに関わらず、ゆっくり楽しもうよ」
「本当に……気にしてない?」
「もちろん。ほら、せっかくみんな集まってるんだから、笑顔じゃないと勿体無いよ」
「う、うん!ありがとう。壮五」
壮五の優しい言葉で不思議と笑顔が湧いてくる。
「ちょっと!壮五いいとこ取りすぎ!」
「え!あ、すみません、百さん!」
「そうだよ、壮五くん。うちの百がいいところ見せようと目をキラキラさせてたんだから」
「千!それは言わない約束でしょ!?」
「約束は破るためにするんだよ」
「そうだったの!?」
Re:valeの2人が場を賑やかにしてくれる。
「そうだぞー、百合。なんなら今からオレと一緒にチョコ作るか!」
「あ、なら兄さん、このエプロンを着けてどうぞ」
「おう!ありがと、一織……って、これアイナナ警察の時のじゃんか!?」
「お。いいじゃんミツ〜。チョコ作るんならついでに酒のつまみよろしく〜」
「三月くんの作る物はなんでも美味しいよね!」
「十さん、よく分かってるじゃないですか〜」
「龍、だからって飲み過ぎるなよ。お前酔うと何言ってるか分かんなくなるから」
「そうだよ、龍。禁酒にされてないだけましだと思いなよ」
みんなのやりとりに笑いがこみ上げる。
私はいい仲間を持ったな、としみじみと思った。
「あれ?そういえば陸と環は……」
「ただいま〜」
「おかえり環くん。陸くん。どこに行ってたんだい?」
「トイレです」
「そう……それはいいんだけど……」
「どっかしたのー?」
「その紙袋は何だい?」
「ああ、これ?さっき拾った」
環の手にある大きな紙袋2つに、私は見覚えしかなかった。
スーっと、血の気が引いていった。