第7章 Saint Valentine’s Day
「ねぇ、天、知ってる?バレンタインデーってもともと恋人達がカードや贈り物を交換する日なんだよ?チョコをあげるっていうのは日本独自の習慣なのよ」
「へぇ。それで?」
「だからね、私思うの。バレンタインデーだからといってチョコを作る必要は無いんじゃないかって」
「……」
「だって、あげる方も貰う方も色々大変でしょ?ねぇ、環」
「えー、俺はチョコ欲しー」
「ほら、環も私に賛成って」
「四葉さん、今、あなたに賛成しました?」
「してないし」
「したってことにしておこうよ」
「百合ちゃん。そろそろ本当のことを言おうか?」
「な、何のことですか千さん」
「そうだぞ。大人しく吐いちまった方が楽だろ」
「が、楽まで……」
「もー、みんな百合ちゃんいじめたらだめだぞー!」
「も、百さん……!」
「あんまり変な空気作っちゃうと、百合ちゃんがオレらにチョコ渡しにくいでしょ!」
「そっちか……!」
「百合ちゃんの作ってくれるチョコは美味しいよね」
「そうですね。オレも大好きです!」
「ワタシも百合の作るチョコレート、ラブです!」
「くふぅ……!龍に陸にナギまで……!」
「百合さん……大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない。助けてそーちゃん」
「おいおい。壮五に無茶振りすんな。困ってるだろ」
「私も!今!最上級に困ってるの!」
「ミツー、油に火を注ぐなー」
「注いでねぇよ!?」
「どうせ私は女子力皆無ですよ!!」
「お前は何の話ししてんだ!?」
今日はバレンタインデー。
こうやって小鳥遊事務所にみんなで集まって騒ぐことは、毎年の恒例行事のようになっている。
騒がしい部屋の中に凛とした天の声が響いた。
「それで、本題は?」
あれだけ騒がしかった空気が一気に静まりかえった。
私は、恐る恐る口を開いた。
「じ、実は……」
ゴクリと唾を飲み込み、思いっきり息を吸って叫ぶように言葉を吐き出した。
「バレンタインのチョコできてません!!」
「「「はぁぁ!?」」」
「ふぅ……やっぱり」
みんなが目を白黒させている中、天と千と大和だけが冷静さを保っていた。
「いや、あのね、これには訳があって……」
「じゃあ、その訳とやらを聞こうじゃねぇか」
「楽、そんな怖い言い方するなよ」
龍が楽をなだめてくれている中、私は訳を話した。