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12色のアイ

第28章 君の音に染められて


千side

カチ、カチ
時計の針の音が異様に大きく聞こえる。
「後3分……」
後3分で約束の20時だ。
果たして彼女は来てくれるのだろうか。
カチ、カチ
この3分は人生で一番長い3分だと思った。
「後、1分……」
時計をじっと見つめる。
後、30秒。
5、4、3、2、1、0。
「……来ない、かな」
いける自信はあった。
……少し性急過ぎたかもしれない。
まだ望みはあるはず。
次会ったときは食事にでも誘おう。
いきなりホテルはまずかったな。
そう一人で反省会をしていた時、カチャリ、と控えめな音が聞こえた。
ゆっくり開くドアの奥に、彼女がいた。
仕事着のスーツのまま、だけど顔を真っ赤にした彼女が。
「……おいで」
おずおずと僕に近づく彼女を抱きしめる。
首元に顔を埋めて息を吐いた。
「来て、くれないかと思った……」
「ごめ……その、深呼吸してた……」
「そんなの部屋に入ってからでもできるでしょ……?」
「いや、ここに入るための深呼吸……」
あーもう。
僕をこんなに振り回すなんて魔性の女すぎる。
堪らなくなって、上着だけ脱がせて彼女をベッドに押し倒す。
「優しくするから」
シャツのボタンを開けながら、首すじにキスをする。
「ま、まって、待って」
「……何?」
「本当に私で良いわけ?ほら、もう三十路近いし、恋愛経験ないし、特別可愛くもないし、あと、しょ、じょ、だし……」
「それの何がいけないの?」
「面倒って聞いたから……処女は」
多分これはネットか何かから得た情報だなと分かった。
内容は気に食わないけど、僕とそういうことをすると察して調べてるのは可愛い。
「良いんじゃない?面倒で。僕が一から教えられるんでしょ?最高。初めての恋愛も初めてのセックスも貰えるなんて、僕って幸せ者じゃない?」
ぎゅっと彼女を抱きしめる。
本当はずっとこうしたかった。
「……あ、石鹸の匂い。お風呂入った?」
「うん」
「ずるい」
私は入れてないのに、と拗ねる彼女が堪らなく可愛い。死ぬ。
「大丈夫。いっぱいしたら一緒の匂いになるよ」
「そういうことじゃな、んむ」
柔らかくて、温かくて、気持ちいい唇。
「優しくするからね、百合」
顔を真っ赤にしながらゆっくりと頷く彼女が可愛くて、また唇を塞いでしまった。
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