第28章 君の音に染められて
千side
「熱烈な視線だね。僕に恋でもした?」
「…………」
「そんなに僕の顔が好き?」
「…………」
「ねぇ、何か言いなよ」
「顔を眺めさせろ」
「眺めてるじゃん」
はぁ。と思わずため息を吐く。
チラリと彼女の方を見るが、様子に変化なし。
変なところ図太いし頑固なんだよなぁ。
「たっだいまー!って、百合ちゃんじゃん!ユキの顔眺めに来たの?」
「そう」
「オレのダーリンはすっごくイケメンだもんね!!」
椅子に座って向かい合っている僕らの周りをモモがくるくると回る。
「あはっ、二人とも仲良しでハッピーだね!!」
「「仲良しじゃない」」
「仲良しじゃん!!」
ゲラゲラとモモが爆笑している。
大体この女はなんなんだ!
僕にこれだけ熱い視線を送っておきながら、いつも何事もなかったかのように去っていく。
この前僕の顔を見ながら作った曲を聴いたぞ!
あんなものを書いておきながら、僕に甘い言葉ひとつ言ってくれない。
埒があかない。
なんなんだこの鈍感女は。今までに会ったことがないぞ。
チッ、カマをかけてみるか。
「ねぇ、さっきTRIGGERの所に行ってきたんだって?」
「うん」
「あの子たちの顔じゃ書けなかったんでしょ?やっぱり僕の顔がいいよね」
「そうね」
「っ……な、何か僕に言うこととか、ない?」
「…………?」
首を傾げるな首を!!くそっ、かわいいな!!
本当に鈍感すぎるだろ。
蝶よ花よと育てられすぎたんじゃないのか!?
もうダメだ。我慢の限界。
そっちから僕を欲しがって欲しかったけど、もうダメ。
あーあ、そうしてくれたらたっぷり甘やかしてあげようと思ってたのに。
「……百合」
「ん?な、んむっ」
彼女の小さな口を覆うように、優しいキスを落とす。
半開きの口に己の舌をねじ込みたくなったが、必死に理性を繋ぎ合わせて我慢する。
ちゅ、というリップ音と共に唇を離すと、彼女の顔はいつもと変わらなかった。
「こんな時ぐらい顔を赤くしたらどうなの?」
「は、ぇ……?」
「ちょっと箱入りすぎない?ちゃんと理解できてる?」
「え、今、え……」
「そうだよ。今、君は僕にキスをされたんだ」
「き、す……」
「そう。君への愛情をたっぷり込めたキスをね」
立ち上がって彼女の方へ近づき、頬に両手を添えて、また顔を近づける。
いつの間にか、モモは居なくなっていた。