第28章 君の音に染められて
「こんにちは。ということでそこ座ってくんない?」
「どういうことだよ」
「今日も顔が良いな」
「会話をしてくれ」
楽は相変わらずツッコミが鋭い。
レッスンルームにいきなり突入しても動じないあたりさすがTRIGGER。
「こんにちは、東雲さん」
「こんにちは天。今日も天使だね」
「もしかしなくても疲れてます?」
「わかる?誰かさんのパパの無茶振りのせいでここ2日寝れてないの。だから顔を眺めさせろ」
「どうしてそれで顔を眺めることに繋がるんですか?」
「え、龍之介、知らない?イケメンを見てると創作意欲湧くんだよ」
「知らなかった……」
「今から休憩でしょ?座って」
文句も言わず素直に座ってくれるTRIGGER。
はぁぁぁぁあああ。かわいい。
「心の声漏れてますよ」
やば。
メモ帳を開き、思いついたことをメモしていく。
「今回の曲はどんなのになる予定だ?」
「……多分ラブソング」
「前の曲人気ありましたもんね!俺もあの曲好きだなぁ」
「うん。それで今回もラブソングにしろってクソ社……社長が」
「でも東雲さんのラブソングって珍しいですよね。今まではロックな曲を中心に作ってませんでしたか?」
「確かに。何か心境の変化でもあったのか?」
「いや特に無い」
「じゃああの曲はどうやって生まれたんですか?」
私はメモ帳をパラパラとめくり、その時の走り書きを探す。
「あー、あれはユキの顔見てる時に作った」
「「「千さんの!?」」」
「うるさ」
お前らアイドルだろ。喉は大事にしろよ。
「千さんのこと好きなのか?」
「ちょっと楽!」
「彼の作る曲は好きだけど、彼に恋愛感情は無い」
揃いも揃ってうっそだぁと言いたげな顔をするな。
無いものはない。
「そもそも私恋愛したことないから」
穴が開きそうなほどTRIGGERの顔を見つめながら話す。
「幼稚園の頃から女子校通い。大学は共学だったけど、音楽ばっかりしてて男を意識したことほとんど無いんだよ」
寝不足で上手く回らない頭を必死に回転させる。
「あー、だめだ。ユキの時みたいに上手く思い浮かばない。ごめん。今度奢るわ」
おつかれー、と言いながらレッスンルームを去る。
「あれ、気づいてないのかな」
「鈍感中の鈍感だな」
「千さんの顔見れば気づくでしょ」
私のいなくなったレッスンルームでそんな会話がされていたなんて知る由もなかった。