第23章 今日の夕食は焼いたお餅ですよ
ムカムカするの。
胸がズキズキと痛くて、身体の中心で真っ黒なものが蠢いているような感覚。
初めての事にどう対処すれば良いのか分からない。
壮五さんは冷たい。
最初は私の事をあまり良く思っていなかったみたいだし、仕方がないのかもしれない。
でも、寂しい。
私は壮五さんに10の愛を捧げているのに、壮五さんからは5くらいの愛しか返ってきていないような気がする。
抱いてくれた事だって数回。
世の中の男の人はこんな感じなのかしら?
私には分からない。
だって、恋したのも、付き合ったのも、抱かれたのも、貴方が初めてだから。
貴方が他の人と笑顔で話しているのを見ただけで心が痛いの。
トゲが刺さって抜けないみたいに痛むの。
このトゲを抜けるのは貴方しかいないのに。
他人に笑顔を振りまく貴方なんて見たくない。
もっと私を見て。
もっと私の声を聞いて。
もっと私に触れて。
もっと私を愛して。
心だけじゃなくて身体まで痛くなってきた。
精神的な病かしら。
こんな事初めてで分からないからパソコンを使って調べてみる。
「……ヤキモチ……」
その四文字を見て納得した。
私は壮五さんが笑いかけている人にヤキモチを妬いていたんだわ。
原因が分かったなら行動開始。
ヤキモチというトゲを抜く為には、愛しいあの人に愛してもらわないと。
ポカンとしている壮五さんを見下ろす。
そうよ。
今の私は焼いたお餅。
貴方への愛で焼かれてしまったこの身体。
責任を持って食べてもらわなきゃ。
「私はね、憎いの。笑顔を振りまく貴方も、振りまかれている人も」
「百合さん…?」
「貴方の笑顔はファンのもの。貴方自身は貴方のもの。だけど…少し恋人に対して冷たくないかしら?貴方は将来私と結婚して私のものになるの。だから、だから…!」
愛してよ。
そう呟いた声は思っていたよりも小さくて、ちゃんと聞こえたか不安になってしまう。
すると背中に腕が回って抱き寄せられる。
「あははっ」
「な、何がおかしいっていうの!?」
「ごめんごめん。貴女があまりにも可愛くて」
顔が一気に熱くなる。
「あはは、そうか、そうか。うん、ははっ、なるほど。確かにこれは美味しそうなお餅ですね」
ちゅ。と頬にキスが落とされる。
「…ゆっくりじっくり味わせてもらいましょうか」