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12色のアイ

第23章 今日の夕食は焼いたお餅ですよ


壮五side

最初は思っていた。
「面倒な事になってしまった」と。

『結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?』
『…………』
これが僕たちの最初の会話だ。
いや、会話にもなっていない。
どう言えば穏便に回避できるか考えていたところ、彼女は人に呼ばれて去って行ってしまった。

彼女は大手化粧品メーカーの社長令嬢、次期社長だ。
20代から50代までそれぞれの世代に合う商品を発売し、人気上位を数十年保っている。
Re:valeやTRIGGERの番組のスポンサーにもなっている。
僕も昔一回会ったことがあるくらいだ。
だからどうしてこんなに好かれているのか分からない。
波風立たないようにやんわりと断ろう。
IDOLiSH7の人気が上がってきている今彼女とのスキャンダルはあってはならない。
……と、思っていたのだけど。
『おはようございます。整理整頓がお好きだと伺いましたわ。どうぞ、最近話題の収納ボックスです』
『お仕事、お疲れ様です。IDOLiSH7のMV見ましたわ。素晴らしい出来でした』
『あの、今日はこれを。その……ファンレターですの』
『ご機嫌いかが。今日もとてもかっこよくいらっしゃいますわね』
『連絡先を教えていただけないでしょうか…』
あの日からよく彼女と会う。
本当によく会う。怖いくらい。
好意丸出しで物や手紙をくれたり話しかけてきたりする。
付き合う気はない、とはっきり伝えたこともある。
けれどファンだと言われてしまったら、邪険にはできない。
彼女に告白されてから数ヶ月後、思い切って聞いてみたことがある。
『どうして、そんなに僕の事が好きなんですか?』
彼女は顔を真っ赤にしてこう答えた。
『一目惚れなんですの…』
耳まで赤い。
いつもこちらをまっすぐ見てハキハキと喋る彼女が、下を向いて掠れた声でポツリと呟く。
これがギャップというものか。
世間一般に見て可愛い顔をしていると思っていたが、この時初めて愛おしいという意味で彼女を可愛いと思った。

このギャップ事件から友達から始めて、付き合う事になった。
そして付き合って三年が経ったある日、彼女に押し倒された。
「今日の夕食は焼いたお餅ですよ。壮五さん」
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