第19章 さようならを無かったことに
「いやっ…はな、はなして……」
「離さない。話がしたいんだ」
いやだ。
話なんてしたくない。
もう会う事なんて一生ないと思ってたのに。
せっかく諦めようと思ってたのに。
私よりもずっと美人な人と幸せになればよかったのに。
どうして、どうして……。
もっと突き放すように別れを告げればよかった。
そうすれば彼はきっと会いになんて来なかった。
会いたくなかった。
「な、んで、来ちゃったん、ですか……」
視界が歪む。
声が震える。
いやだ。こんな私を見ないで。
「わ、わたしっ……あきらめ、諦めようと……せっかく…」
こんなにも貴方に未練たらたらな私を見ないで。
「すきじゃ、だめ、だめだから…っ…!」
懐かしい感触。
柔らかいけど少しカサついてる楽さんの唇…。
理解した途端顔が熱くなる。
そして、楽さんに優しく抱きしめられた。
初めての時みたいに、優しく、優しく。
「百合。不甲斐ない俺を許してくれ」
「…え、ちがっ、貴方は悪くない…!私が、わたしが…」
違うの。
悪いのは全部私。
「俺はお前の苦しみを分かってやれなかった」
楽さんが声を絞り出すように言う。
「お前が少しでも苦しまないように俺の愛を言葉にして伝えていたが、それが逆効果になっちまった」
「……」
「気づいてやれなくて本当に悪かった」
「違うの、聞いて、楽さん」
貴方にそんな顔はさせたくなかった。
そんなことは言わせたくなかった。
「私は、ずっと楽さんの言葉に救われてた。私なんかでもこんなに愛してくれて、本気だって伝わってきて」
ぽつり。涙がこぼれた。
「楽さんは、いつも、私のことをかんがえて、くれてるのに…わ、わたしはっ、わたしのことしか、かんがえられなくて…!ばれたら、どうしよう、とか…かってに、嫉妬したり…!そんな自分がきらいで…!が、楽さんが、くれた愛を、わたしは、全く返せなかった…!だからっ、だからわたしは…」
貴方にふさわしくない。
そう言おうとした時、また優しく口を塞がれた。
「それ以上は言うな」
命令口調なのにすごく優しい声色。
「百合は、俺のことが好きだった?」
「うんっ…」
「今は?好き?」
「……う、ん…」
私が返事をすると、彼は私が告白をOKした時みたいな笑顔を見せて
「ならそれで十分だ」
と目元に優しいキスを落としてくれた。