第19章 さようならを無かったことに
楽さんとのお付き合いは、何というか、兎に角凄かった。
本当に日本人か?っていうくらい恥ずかしい事もポンポン言ってくるし、さりげなくレディーファーストしてくる辺りももう何とも言えなかった。
彼はアイドルだから表立った交際はできなかったけれど、それでも十分すぎるほどの愛を私にくれた。
幸せだった。
でも、それ以上に怖かった。
私は何も考えずに交際を始めてしまったけど、私は元々彼の事を恋愛と言う意味では愛していなかった。
だから覚悟も何もできていなかった。
職場ではバレるんじゃないかとビクビクして、綺麗な女優さんと話している彼を見てはムカムカして、私だけ見て欲しいなんて思ってしまう私にイライラして、精神的に辛かった。
私は最低な女だった。
彼はこんなにも真剣な愛をくれたのに、私は好きでもないのに承諾したどころか、交際してからも自分の立場しか考えられなかった。
こんな女、貴方に相応しくない。
そう言っても、何言ってんだと笑ってくれた。
付き合い始めて一年が近くなった頃、彼に抱かれた。
ずっと手を握るか、軽いキスをするかだったのに我慢の限界だったらしい。
私は初めてだったから痛みを感じたけれど、それはそれは優しく抱いてくれてすごく気持ちよかった。
自分の身体が自分のものでなくなったかのような感覚。
甘ったるい声しか出なくて、顔もぐちゃぐちゃで酷かったと思う。
でも、彼はそんな私を見て「可愛い」だの「綺麗」だの「もっと見せろ」だの言ってきて、すごく恥ずかしかった。
私が気を失ってしまった後も、片付けをして身体の心配もしてくれて始終優しかった。
そんな彼に欲情して、もう一回とせがんでしまったのは仕方がないと思う。
抱かれた後、仕事向かう彼にいってらっしゃいを言った後、私も支度を始めた。
彼の電話番号とラビチャを消して、私の電話番号もラビチャのアドレスも変えた。
私の痕跡が残るものは全て消した。
仕事も辞めて、一度地元へと帰った。
それから新しい仕事を見つけてまた引っ越した。
そう、私は逃げたのだ。
きっと私はいない方がいい。
貴方にふさわしい女の人を見つけて幸せになって欲しい。
そんな思いで手紙だけ残して彼の前から消えた。
『どうか私の事は忘れて幸せになってください。最後に素晴らしい思い出をくれてありがとうございました。さようなら。』