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12色のアイ

第19章 さようならを無かったことに


「東雲さん、これのコピーお願いします」
「はい」
書類を受け取り席を立つ。
都会から地方へと移って、この会社に就職して約2年。
最初は雑用しか任されなかった私も、今では大きめの仕事を貰えるくらいには成長した。
「ねね、東雲さん」
「なんですか?」
コピー機を使っていると同僚が話しかけてきた。
「東雲さんってここに来る前は上京してたんですよね?どうして帰って来ちゃったんですか?」
「はは…人間関係ってやつです」
苦笑いしながら答える。
「まぁ、私には合わなかったんですよ。こっちの方が落ち着けますし」
そうだ。私には合わなかった。
都会なんて良い意味でも悪い意味でも図太い人間しか生きれない。
もう二度と行きたくない。
ああ、そう言えば今日はTRIGGERのシングルの発売日だっけ。


私は昔、八乙女事務所で働いていた。
大きな事務所だけあって仕事が多くて、毎日毎日バタバタして疲れ果てていた。
そんな時、いつも私を癒してくれたのはTRIGGERの音楽だった。
だから、ここで働く事で少しでもTRIGGERの役に立てていることに喜びを感じていた。
そんな私の人生が変わり始めたのは入社してわりと直ぐのことだった。

「お前に一目惚れした。俺と付き合ってくれ」
「へ?」
「お前が好きだ。付き合ってくれ」

背後から腕を掴まれたと思ったらそのまま誰もいない会議室に連れ込まれ、壁ドンとかいう体勢で八乙女楽さんに告白された。
キャパオーバーにも程がある。
こんな色男、女なんか選び放題のはずなのになんで私なんだ。
色々考えを巡らせている間も、彼は私をじっと見つめていた。
……が、眼力がすごい。
顔の良さというのは時には武器になるとこの時改めて思い知った。
私は彼から発せられる圧に耐え切れず、「は、い」と返事をしていた。
馬鹿な私。
この時断っていればこんな思いはしなくて済んだのに。
ああ、でも私が交際OKした時の彼の笑顔はすごかった。
今まで見たどんな笑顔よりも優しい表情だった。
その後、私があたふたしている間にあれよあれよと電話番号とラビチャの交換が済んでいたところは、流石やり手の八乙女社長の息子だなと思った。
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