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あまりにも優しくて、どこまでも冷静な

第2章 ズルい言い方


 頭がいっぱいになっている私はとっさに反応できなかったが、先生はビクリと身体を震わせた。ズルリと指が引き抜かれて、その刺激にンッと私の声が漏れた。

「あのー…先生」

「あっ…伊豆!?どうしっ…!なん、でっいるんだおまえ!ここに!」

 伊豆…くん?
 涙でうるんでよく見えない目をこらすと、戸口に人影が見える。
 あ、そうだ、クラスメイトの、伊豆くんだ…。

「いや、オレ、今日の2限で視聴覚室に忘れ物したんですよ。取りに行かないとと思って、普通に職員室で鍵借りて来たんですけど。そしたら準備室から、凄い声聞こえて。ビックリして見に来ました」
「こっ…オマ、いや…!ここで見たこと、言うなよ!誰にも!お前ぇ!」
「ああ…、オレも先生と桃浜が好き同士でやってるっていうのなら別にいいんですけどね」
「…!う、ん…まあ…!」
「もしかして違うんですか。無理矢理…とかだったら、オレもちょっと見過ごすわけにはいかないです」
「こ…の!クソガキ!うるせぇんだよ!」

 私は朦朧とする頭をなんとか動かして、2人の方を見た。先生が振り上げた拳を、伊豆くんが掴んでいる。
 うわあ強いな、彼…そういえば運動部だしなあ…何部か思い出せないけど…。それとも先生が弱いのかな…インドア派っぽいしなあ…。
 そんなことを考える程度には思考がボケていた。

 その後も何か言い合っていたようだが、やがて先生は逃げるようにして部屋から出て行った。足音が遠ざかる。
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