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【YOI】ほろ苦く、そして甘い予感【男主&ユーリ】

第2章 僕と貴方の唇は


純もかくやと言わんばかりのイーグルからのアクセルジャンプに、ユーリは思わず身を乗り出すとリンクの礼之に視線を移す。
すると特別目が合った訳でもないのに、まるで礼之が自分に向かってサインを出しているかのように、唇に指を当てているのが見えた。

「アレクは、女の私よりも乙女チックな趣味してるよね」と時折双子の妹にからかわれるが、礼之は、昔のモノをはじめとしたフレンチポップやブリットポップが好みである。
甘い女性ボーカルのこの歌は、直接的な描写の単語はないのに相手に何を求めているのかがとても判り易く歌詞の中に含まれていて、礼之のお気に入りだった。
オフシーズン中、偶然この曲に合わせて遊び半分の振付を純としていたのを思い出した礼之は、ユーリと別れた後、はじめは様々な理由から難色を示していた純に懇願し、今回のEXに漕ぎ着けたのである。
かつて、幼少期に自分の金髪が嫌で祖父の部屋にあった墨液を衝動的に頭から被った程ではないが、正直礼之は自分の容姿に多少のコンプレックスを持っている。
しかし、そんな礼之に純は「君のその容姿は最大の武器でもある。21世紀の『サムライ』は、ケースバイケースで柔軟な考え方もしていかんと」と、アドバイスしてきたのだ。
「演技中は恥じらいを捨てなさい。スケーターが、客席から観てる人の前でみっともない真似したらアカン。君の目標でもある勝生勇利は、リンクの上でならランドセル背負った小学生女児でも余裕で演じる事出来るで」と、勇利本人が聞いたら卒倒しそうな言葉に、礼之は演技の中でだけはコケティッシュな金髪女性になってみようと思った。
そして、スケートを通じて自分の想いをあの人に伝えるのだ、と。
(貴方は、こんな僕に驚いてる?ただのアクシデントかと思ったけど、どうやら今の僕の気持ちはこの歌の通りみたいだ。『貴方がいないと、私の唇はちっとも幸せじゃないの』)
伏し目がちに何度か指で唇をつついては軽やかなステップをリンクに刻む礼之に、いつしか会場から手拍子が起こった。
リンクサイドでは、勇利の横でピチットが楽しそうにサビの部分を口ずさむ。
そして、客席のユーリは何とも形容し難い表情をしながらも、視線を礼之から外せずにいた。
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