【YOI】ほろ苦く、そして甘い予感【男主&ユーリ】
第2章 僕と貴方の唇は
『上ばかり見ている貴方の足元を掬いに来ました。僕の瞳が「青い」内は、貴方に油断なんかさせません』
かつてロシア大会で再会した彼から正面切って挑まれた言葉に、ユーリが内心少しだけ嬉しかったのも、隠しようのない事実だった。
自分と戦う為だけに、わざわざジュニア当時の自分の記録を全て塗り替えてきたという『青い瞳のサムライ』。
どこまでも生真面目でストイックなのかと思いきや、外見と中身のギャップや年相応な面も見られ、年齢も1つ違いで意外と共通の話題もある事が判った。
昨シーズン、とある人物への淡い想いを自分なりに昇華させて以降、ユーリは「色気より競技と食い気」の日々を過ごしていた。
振付師のリリアから「競技の妨げにならぬ程度なら、恋愛も良いスパイスになる」と勧められた事もあるし、グラマラスなモデルや美しい女優などを目にすればそれなりに興味も湧くが、自分の恋愛となるとどうもユーリはピンと来なかった。
確かに、たった1つのキスにも沢山の想いが込められる事を、ユーリは身をもって知っている。
しかし、ただのアクシデントの筈が、何故こんなにも自分は彼の事が気になるのだろうか?
ユーリが無意識に己の唇を指でなぞっていると、EXは前半ラストのプログラムに入り、リンクに礼之の姿が現れた。
『前半最後の登場は、日本の伊原礼之です。惜しくもファイナル進出はなりませんでしたが、先のロシア大会では2位、そして今回6位とシニア1年目としては大健闘しました』
『まさにこれからが楽しみな選手ですね。何と今回が初披露のEXという事です。曲は「Lips are Unhappy」。振付は、勝生勇利の元同期にして伊原選手の競技プロも手掛けた藤枝純です』
「あっ、僕この歌大好き!」
「知ってるの?」
「うん、だってタイでもカバーされてるから」
今回3位に入賞していたピチット・チュラノンが、隣にいた勇利に嬉しそうに答える。
60年代ポップスのようなベースのリズムに合わせて顔を上げた礼之は、ヘアメイクの効果もあって普段のどちらかといえば精悍な顔つきとは違った中性的な雰囲気を醸し出していた。
歌詞に合わせて腰を振る動作を繰り返した後で滑り始めると、イーグルからの3Aを見事に着氷する。