第1章 happily ever after
すぅ、と息を吸って、吐く。落ち着いてきた胸の音がとくとくと重なって、心地よい温かさの中、目をゆっくり開いて。回された腕に手を重ねると、ぴくり、と跡部が反応する。あぁ、跡部も緊張してるのかな。
「ごめんね」
まずは、ごめんね。ずっと何も言えなくて、伝えなくちゃいけないことも、口にできなくて。
「追いかけてくれて、ありがと」
次に、ありがとう。ずっと待っててくれた、その言葉を心から信じたい。
「私、も、」
あぁもう、こんな時に。緊張からか、じわりと涙が滲んで、声が震える、でも、もう逃げも隠れもしたくないし、出来ない。だってこんなにがっちりと、心も体も囚われてしまっている。
「わたしも、あとべが、すきだよ」
「…やっと言ったな」
耳元で囁かれた低い声に弾かれるように、精一杯首を回して振り向く。にやり、と笑う跡部は先ほどの声色からは想像出来ないほど、意地の悪い表情を浮かべている。
「あ、んたっ…だ、騙した!?」
「騙したとは人聞きが悪いぜ、お前が言いやすい雰囲気を作ってやった迄だろ…アーン?」
覗き込んでくるように笑う跡部。相変わらずムカつく、やなヤツ、でも、それ以上に!
「…ばーかっ、でも、やっぱりすきだよっ」
ぐるり、と身をよじり、反転して。腕を回し返すと、跡部は少しだけ驚いた様な表情をしたけれど、しかしすぐにいつもの勝気な笑顔を浮かべる。そして少しずつ顔を近づけて来るものだから、何かの予感にぎゅ、と目を閉じた。
――初めてのちゅーがディープって、何なわけ?
でも、余りにも「らしい」過ぎて、笑ってしまう。何もかもがたどたどしくて、これからも空回りしてしまうだろうけれど、もうきっとぴったりと離れられない。
また吹いた風が一度落ちた花びらを巻き上げる、まるで夢の中のような、桃色の世界。その中で、こつん、と額がぶつかる程の距離で。見たことも無い位に甘い表情を浮かべた跡部が、ゆっくりと口を開く――
「俺様も好きだぜ、千花」