第1章 Kissからはじめよう
【智side】
ぱさり、と乾いた音を立てて、俺の着ていたトレーナーが床に落ちた。
翔くんは相変わらず怯えた顔をしながら、でも逃げることもせずに俺のことをじっと見ている。
そのアーモンドみたいな綺麗な瞳をじっと見つめながら、翔くんのスウェットに手を掛けた。
やっぱり、抵抗らしい抵抗はなくて…
いいの…?
この先に進んでも、いいの…?
目で訴えてみても、翔くんはゆらゆら揺れる瞳で見つめてくるだけ。
スウェットの裾を持って持ち上げてみれば、翔くんは自ら万歳する格好で俺が脱がすのを手伝うみたいにしてくれて。
気が変わらないうちにと急いで脱がせた。
現れたのは、筋肉のついた男らしくて滑らかな白い胸。
ずっと、触れたかった。
社員旅行でたまたまお風呂で一緒になったとき、翔くんの裸を見てすっごくドキドキして。
速攻反応しちゃった俺のオレを慌てて湯船に浸かって隠しながら、ずーっと翔くんの裸を見てた。
見ながら、触れたらどんな感触なんだろうって想像してた。
それから時々、自分でスルときに翔くんの裸を思い出して…
でも、実際に触れることなんてできないんだって虚しくなって…
その焦がれて焦がれて堪んなかった肌が、今現実に目の前にある。
すぐに、触れられる距離に。
俺は恐る恐る手を伸ばして、そっとその肌に触れた。
瞬間、ぴくり、と翔くんが震えたけど。
やっぱり逃げる気配がなくて。
そのまま背中に腕を回し、引き寄せる。
すとん、と翔くんの身体が俺の腕の中に入ってきて。
触れ合った肌は、吸い付くようにくっついた。
「…あったかい…」
心の声が、思わず吐息に乗って漏れちゃった。
翔くんは何も言わないまま、俺に身体を預けてる。
どういうつもりなの…?
なんで、抵抗しないの?
なんで、俺を受け入れてんの?
なんで…
俺のこと、どう思ってんの……?
聞くのが、怖くて。
俺は、無言でその身体を押すと、床に押し倒した。
翔くんの大きな目が、さらに大きく見開かれる。
「翔くん…」
覆い被さったまま唇を近づけようとすると、そこで初めて翔くんの手が動いて。
「ま、待って…!」
俺の肩を押し返した。
「ちょ…こ、これってさ…」
「嫌…?」
「い、嫌っていうか…これ…俺が女役なの?」
…そこ!?
「じゃあ、翔くんはどっちがいいの?」