第1章 Kissからはじめよう
【智side】
なんかさ…
これってすっごい、いい感じじゃない!?
「ほら、飲もうよ。今週もお疲れさまっした~!」
俺はほんのり赤くなった翔くんの頬に気付かない振りをして、わざと元気よく自分の缶を翔くんのにぶつけた。
「お、おう、お疲れ」
照れ隠しなのか、ぶっきらぼうに言ってレモンハイの缶を一気に煽る。
触れ合ったままの、翔くんの左腕と俺の右腕。
こんなにくっついてんのにさ、避けようとしないってことは、俺のこと満更でもないってことじゃない!?
今まではさ、距離を詰めようとあれこれと策を張り巡らしても、全部先回りして俺が必要以上に近付かないようにガードされてた。
まぁ、俺が頭で翔くんに敵うわけないんだけど。
もしかして、俺の気持ち気付いてんのかなって。
だから、遠回しに諦めろって言われてんのかなって落ち込んだこともある。
でも、ハッキリ言われたわけじゃないし。
思ってんのは自由じゃん?
本当はキスしたり抱き合ったりしたいけど、敵わぬ夢だと、妄想の中に留めておく覚悟なんてとうの昔にした。
でも、今日はなんだろう…?
口では俺を牽制するようなこと言いながらも、なんかいつもよりガードが甘い気がする。
これってさ、もしかして脈ありってことかな!?
「ねぇ…翔くん…」
俺が意識して甘い声を出すと、触れ合った部分がほんの少し震えた。
うぉっ!?
今、ビクッてしたよね!?
もしかして、このまま押せばいける…?
「あのさ…」
「う、うん…」
「今日のニノの企画書、面白かったね~」
俺は敢えて話題を変え、明るい声を出す。
だって翔くんは押したら逃げてくんだよ!
長い付き合いで、それくらいはさすがに分かってる。
だから、逃げられないように1歩ずつ慎重にいくんだ。
「あ、ああ、あれね?うん、面白かった」
身構えるように体を硬くした翔くんは、急に変わった話題にほぅっと息を吐いた。
「しかし、二宮が恋愛ゲームを企画するなんて思わなかったよ。あいつ、恋愛とか全然興味なさそうなのにさ~。つか、人間自体に興味なさそう」
安心しきって、楽しそうに笑い声を立てる翔くんの左腕に、自分のをするりと絡めてみた。
翔くんは、ビクッと大きく震えた。
「さ、智くん…?」
「ニノだって好きな人くらいいるよ」
「え…?」
「もちろん、俺も。誰だと思う…?」