第1章 Kissからはじめよう
【智side】
最寄りの駅で降りて、自分のマンションへ向かう道すがら、俺の心臓はありえないくらいバクバクと音を立てた。
だって、ほんとに来ると思わなかったんだもん…。
今まではさ、どんなに家飲みに誘っても頑なに拒否られてたのに。
今日に限って、いったいどういう風の吹き回し?
「ん~?なに?」
鼻歌なんか歌いながら、やたら上機嫌で隣を歩く翔くんの顔をチラチラ見てると、会社では絶対に聞かせてくれない柔らかい声で聞いてきた。
「ううん、なんでも…。あ、コンビニ寄ろっか。もう1本くらい飲むでしょ?」
心臓の音が聞こえそうな気がして、誤魔化すように目についたコンビニを指差す。
翔くんはカゴを左手に持つと、そこにビールやらチューハイやらを手当たり次第入れ始めた。
「え?ちょ、ちょっと、そんなに?」
「明日は土曜だしさ、たまにはいいじゃん。飲み明かそうぜ」
ええ~!?
それってさ、それって…俺んちに泊まってくってこと、かな…?
考えると、思わず喉がゴキュッて鳴った。
二人っきり…
あの狭い空間で、朝まで翔くんと二人っきりなんだ…
「なに?嫌?ならいいけど」
急に黙りこくった俺に眉を寄せ、ビールを棚に戻そうとするから。
「わあぁっ!いいっ!大丈夫!朝まで飲み明かそう!」
俺は慌ててそれを押し留めると、近くにあったおつまみをいくつかカゴに放り込んだ。
「ほ、他にもなんか要る?」
「いや、食いもんはさっき腹一杯食ったし。そんなもんじゃない?」
「じゃ、じゃあ買ってくるね!」
カゴをもらってレジへ向かおうとしたら、片手で俺を制して。
「いいよ。俺がお邪魔させてもらうんだし。それに、部下にこういうの、払わせられないだろ?」
かっ、こいい…❤
聞いた?今の聞いた?
おまえには払わせないよ、だって!!
やば~いっ!!
俺、朝まで理性、保てるかな…
「俺が持つよっ」
「いいよ」
「じゃあ、半分こしよ!」
そう言って、ビニール袋の持ち手を片方ずつ持って、うちへと向かう。
なんかこれ、恋人みたいじゃない?
「むふふっ…」
「なに笑ってんのよ、気持ち悪いな」
堪えきれなかった笑いが漏れちゃって、翔くんがちょっと引いた顔したけど。
そんなの気になんないもんね~!
だってさ。
朝まで、二人っきりなんだもん。
襲っちゃおっかな~❤