第1章 Kissからはじめよう
【智side】
翔くんの指が、くるくると入口付近を撫でる。
「ね、早く…」
「う、うん…」
焦らしてるみたいな動きに、早くその先の刺激が欲しくて身悶えると、戸惑いがちに指先がぷつりと入ってきた。
「ああっ…」
「だ、大丈夫っ…?」
思わず声を上げた俺に、翔くんが不安そうな目を向ける。
「大丈夫、だから…もっと…」
「う、ん…じゃ、行くよ…?」
ゆっくりゆっくりと翔くんの指が奥を目指して進む。
「智くんのここ…すっごく柔らかい…」
独り言みたいに呟いて。
「ねぇ…もしかしてさ、初めてじゃないの?ここ」
軽く、睨まれた。
「えっ…は、初めてだよぉ~」
「ほんとに~?」
「ほんとほんと!」
「ふ~ん…」
つい、目を逸らしてしまった。
「…鼻、ピクピクしてる」
翔くんの指が俺の鼻をぎゅっと摘まむ。
「ふぎゃっ…」
「嘘吐いてるときの、智くんの癖。だてに、付き合い長いわけじゃないよ?」
アーモンドみたいな瞳が、じーっと俺の目を奥の奥まで覗き込んできて。
「ほら、言ってみな?本当は初めてじゃないんでしょ?」
ううう……
「ずーっと俺のこと、好きだったんじゃないの?」
「そ、そうだよっ!翔くんが好き!翔くんだけが好きなのっ!」
「じゃあなんで、ここ、他の男に触らせてんの~?」
だ、だって、さ…
「だって…翔くんには、絶対触れらんないって思って…一生、俺のことなんて振り向いてくれないと思ってたから…」
「智くん…」
俺を弾劾するような眼差しが、ちょっと緩む。
「だから、寂しくて…つい…。でも、いつも思ってた…これが翔くんの手だったらって…翔くんが抱いてくれてんの想像して…ごめん…バカだよね、俺…」
「智、くん…そんなに、俺のこと…」
目の前の大好きな翔くんの顔が滲んで、よく見ることが出来ない。
もう最後かもしれないから、しっかり網膜に焼き付けたいのに…。
「好き…翔くんが大好き…世界中で一番好き…」
ありったけの思いを込めて、そう告げる。
翔くんに、届きますようにと。
「智くん…嬉しいよ…」
ついには零れ落ちた涙を、翔くんがそっと指で拭ってくれた。
「俺さ、初めてだから…どこをどうすれば気持ちいいのか、教えて?智くんと、気持ちよくなりたい」
そう言って微笑んだ翔くんは、今まで見た中で一番、かっこよかった。