第7章 まだ見ぬ世界へ
【和也side】
その日の業務時間中、俺はずっと翔さんを観察してた。
いつも通り涼しい横顔で企画書を読んでたり、厳しく叱ったり、時には褒めたりして。
何も知らなければ、いつもと同じ櫻井課長。
でも。
時々、ぼんやりと遠くを見てたり。
切ない目で、大野さん、相葉さん、潤くんを順番に見て。
最後に俺を見て目が合うと、気まずそうにふいっと目を逸らした。
なんなんだろう…
全然、わからない…
相葉さんと潤くんの話だと、大野さんとすっごいいい雰囲気だったみたいで。
相葉さんなんて、「もうだめだ~!」なんて叫びながら、ヤケ酒するくらいで。
だけど…
大野さんを見ると、いつになく真剣な表情でパソコンに向かってる。
翔さんがじっと見ていても、気づきもしない。
いや、気付いて、無視してんのかも…
そんなこと、今まであった?
いや、ない。
いつだってこっちが恥ずかしくなるくらいのラブラブ光線を送ってる人なのに!
…翔さんは大野さんを選ばなかったってこと…?
でもそれなら大野さんのことだから、大袈裟なくらい落ち込んだりしてるはず。
そんなのも、感じない。
ただ、無。
いったい、なんなんだよ…
訳わかんなくて、イライラして。
結局、その日一日、仕事になんなかった。
翔さんは、俺を選んでくれるって、そう信じたいけど。
自信なんて、何もないんだから…
仕事を定時で切り上げ、俺たちはそれぞれに『Olive House』へと向かった。
同じ部署だし、行き先も同じなんだけど、一緒に行く気にはなんなくて。
だってさ、ほら一応、ライバルなんだし?
俺が店に着くと、先にいたのは潤くんだけ。
「…翔さんは?」
「まだ」
「そう…」
それだけ会話を交わすと、俺は潤くんの隣に腰を下ろした。
ビールを頼み、運ばれてきたグラスに口を付ける。
仕事終わりのビールはいつも美味しく感じるのに。
今日は微かに苦かった。
「ねぇ…」
「ん?」
「…やっぱ、なんでもない…」
出てくるのは、意味のない言葉しかなくて。
潤くんも俯きがちにちびちびとビールを飲んでる。
不自然な沈黙に支配された部屋。
そこへバタバタと騒がしい音が近づいてきて、
「ごめ~ん、遅くなって…って、あれ?翔さん、まだ?」
相葉さんが、飛び込んできた。