第7章 まだ見ぬ世界へ
【智side】
目蓋の向こう側に暖かい光を感じて。
そっと目を開くと、目の前には大好きな人の安らかな寝顔。
…しまった…
一晩中、翔くんの寝顔、見ていようと思ってたのに。
だって…
これが最後かも、しれないし…
考えると悲しくて寂しくて。
涙が込み上げてきそうになって。
グッと眉間に力を入れて、堪えた。
ダメだ。
泣いちゃダメ。
翔くんがもしも俺を選ばなかったとしたら、これが最後の朝になる。
だったら、笑顔でいよう。
翔くんの中に残るのが、笑顔の俺でいて欲しいから…。
俺は眠る翔くんのぽってりとした唇に、そっとキスをした。
何度も何度も。
決して、忘れないように…
「…さと…」
ゆっくりと開いた瞳が、俺を真っ直ぐに捉える。
「おはよ、翔くん」
「…おはよう…智、くん…」
まだ寝惚け眼の翔くんは、それでも柔らかい笑みを浮かべてくれて。
そっとキスを返してくれた。
「…一晩中起きてるんじゃ、なかったの?」
「むぅ…起きてるつもりだったんだけど…」
「ふふ…俺より早く寝てたじゃん」
「え?ホント?」
「うん。俺、しばらく寝顔見てたし」
「ええ~!?変な寝言とか、言ってなかった!?」
訊ねると、途端に真っ赤な顔になって。
「翔くん好きって、何度も言ってた」
ボソボソと答えた。
「それは変な寝言じゃないもん!ホントのことだもん!」
「どんな夢みてんだよ…」
どんな夢…?
よく覚えてないけど…
「なんか、とっても幸せな夢。翔くんが傍にいて…」
言いかけて。
その先の言葉は、飲み込んだ。
「…やっぱ、なんでもない」
ずっと傍にいてって、本当は縋りつきたい。
でも…
あいつらの気持ちも、わかるから…
「…智くん…」
翔くんが腕を伸ばして、そっと俺を腕の中に抱き込んだ。
「とっても楽しかったよ?この1週間」
「…翔くん…」
「智くんといて、本当に楽しかった」
「しょお、く~ん…」
優しい声で囁かれて。
もう、我慢できなかった。
「もう…案外、泣き虫なんだね…」
呆れたように言いながらも、泣きじゃくる俺の頭を何度も撫でてくれる。
「…しょおくん…だいすきぃ…」
「うん…ありがとう…」
この1週間、本当に幸せだったよ…
ありがとう…
翔くん…