第6章 Hung up on
【智side】
「ばーか」
翔くんはそう言って笑って。
俺のおでこを指先でピンと弾いた。
「ほら、食べよ?めっちゃ旨そうだから、早く食べたい」
優しく微笑む顔が、とっても綺麗で。
俺の胸は、キュンと音を立てた。
本当はキスしたかったけど。
翔くんのその顔見られたから、それでいいや。
「うん!いっただっきま~す!」
並んで手を合わせて。
「うんま!」
「うまい!」
笑顔で、夕飯を食べて。
「翔くん、この日本酒うまい!」
「だろ~?ちょっといいやつ、買ってきたんだ」
「俺のために買ってきてくれたの~?」
「あ~、まぁね」
「んふふ~、翔くん大好き❤」
「あ、ありがと…」
他愛ない会話をして。
触れ合ったりしなくても、こうして傍にいるだけでとっても楽しくて。
自然に笑顔になれる。
翔くんが傍にいて笑ってくれるだけで、本当に幸せ。
本当に本当に、幸せなんだ。
他に、なんにもいらない。
なんにもいらないから。
お願い…
俺の傍にいて…?
これから先も、ずっと…
「智くん…?」
ジッと見てると、翔くんもジッと見つめ返してくれて。
ゆっくりと顔が近付いてくる。
頬に手を当てられて。
あ、キスしてくれんのかな…?
俺はそっと目蓋を降ろした。
だけど、いくら待っても、期待した感触はやってこなくて。
そーっと薄目を開いてると、片手で口元を覆って笑いを堪えてる翔くんのドアップ。
「んも~っ!なにやってんだよぉ!」
目を開いて、口を尖らせると。
ちゅっと音を立てて、翔くんの唇が掠めてった。
「さっきのキス待ち顔、めちゃ可愛かったよ♪」
「な、なんだよ、それっ…」
「あ~、真っ赤になった!照れてんのぉ?」
「ち、ち、違うもんっ!」
くすぐったくって、ひどく温かい空気が、部屋の中に溢れてる気がする。
「ほら、あ~ん❤」
ニヤニヤしながら、箸で刺身を摘まんで、俺の口の前に差し出す。
思いっきり口を開けると、翔くんは弾かれたように笑い出した。
「あははっ…でっかい口!」
「なんだよぉ~いいだろっ!早くして!」
「はいはい」
放り込まれた刺身は、自分で食べるよりもっと甘くて蕩けそう。
「美味しい!もっとちょ~だい?」
「はははっ!なんか、餌付けしてるみてぇ」
翔くんの弾けるような笑顔に、俺もとびきりの笑顔を返した。