第6章 Hung up on
【翔side】
「今夜は日曜日に釣った黒鯛、ご馳走するよ」
今朝、並んで歯磨きしていると、智くんが嬉しそうにそう言った。
「翔くんに食べさせたくって釣りに行ったんだ~♪」
鏡越しに、そうにっこり笑う智くんは、夕べの雄の顔した彼とは別人みたいに可愛かった。
会社からいったん自分の家に行って魚を持って来るっていうから、俺も早めに会社を出た。
『鯛の刺身なら、日本酒、かな~?』
良くワインを買いに行く店で日本酒を選んだ。
店の人にも聞いて、少しお高めの吟醸酒を買った。
……智くんとの夕飯のために、何で俺、ちょっと浮かれてるんだろう?
黒鯛の刺身が楽しみなのかな?
それとも…俺…
マンションに着くと、ドアの前で智くんが手を振っていた。
「お帰り~♪翔くん!俺も今着いたんだ~❤」
嬉しそうに声を弾ませる智くんに、不覚にもキュンとしてしまい…
俺は慌てて目を反らせた。
「はあ~、寒かったね!」
黒鯛が入っていると思われる、重そうなクーラーボックスを一緒に持ってやると、智くんは、
「ありがと、翔くん♪優しいね❤」
と笑った。
その笑顔に、俺の喉はごくりと鳴った。
なんだろう?
俺…どうかしちゃったのかな~?
智くんなのに…
「翔くんはお風呂入っていいよ~!」
そう言った彼は、腕まくりをして持ってきた大きな黒鯛をさばき始めた。
器用に包丁を使って魚を下ろしていく、智くんの綺麗な指先にドキドキしちゃって…
俺は風呂場に急いだ。
そう言えば、智くんとの一週間が終わったら、俺は4人の中から1人を選ばなければいけない。
1人に決める…
4人の中の1人と付き合う…
本当に、そんなこと、出来るのかな?
俺…誰を選べばいいんだろう?
俺は、本とは誰のことが……
風呂から出ると、テーブルには黒鯛の刺身が綺麗に並んでいた。
「お~、すげぇ~!旨そう~」
「ふふっ、美味しいよ、絶対♪
早く食べよ。ねえ、そのお酒見たことないやつだ~♪
翔くん、買ってきてくれたの?やった~❤」
……こんな喋る人じゃないよね、普段。
よく動く口元をじっと見ていると、智くんは、
「何~?翔くん、俺の口ばっか見てんの~?
もしかして、ちゅうしたくなっちゃったとか~?
いいけど、別に、しても♪」
そう言って口を少し尖らせた智くん。
「ばーか」
俺は笑った。