第27章 甘くて苦い。
「大学まで遠いとかじゃなくてさ、ここから駅まで行くの、バス必要じゃん。だから、駅の近くの方がいいかなって思ったから。」
たしかに、その方がいいかもしれない。
バイトするなら帰り遅くなると、バスが来なくなるし。それに、定期を買うのもお金かかるし。
「わかった。ちなみに家はもう決まってるの?」
「実はまだなんだよね。これから探す。」
まだ決めてないのか…。鉄朗のことだから、もう見つけてるのかと思ったけど。
「てか綾菜はさ、引っ越さないでとか思わねぇの?」
「思わないよ。…そこまで遠くないし。それに、鉄朗が決めたことを私が否定する必要ない。鉄朗の将来を潰すのだけは絶対に嫌だから。」
「そっか」
鉄朗はそう言って笑った。
その顔を眺めながら私も笑うと、鉄朗は、あ、と声を出し、立ち上がる。
「ちと、待ってて」
「わかった」
鉄朗は部屋を出ていきながら、そう言った。