第2章 水精霊の宿る石
「シド・ユトエル……」
静かな声音で、コアが話し始める。
「クラルキア帝国の貴族に、同じ名前が存在する」
シドが、最も聞かれたくなかった事を。
「古参貴族ユトエル家、その嫡子シド。いずれは『帝国騎士団』の筆頭として、帝国の野望に尽力する筈だった」
「…………」
「しかし……お前は、皇帝と袂を分かった。精霊石の一つを持って」
(バレてんのかよ……ジェインを追ってたんじゃなかったのか)
「ふっふっふ、セイバーズを舐めてもらっちゃ困るよ〜?シドく〜ん」
揶揄うケリィに純粋にムカついた。
しかしそれは抑え、シドは観念したように体の力を抜き、盛大に椅子の上にダレる。
「そこまでバレてるとは思わなかった!あー、クソ……今まで緊張感じてたのがバカみてえ」
「あっはっは!緊張させてたか、それはごめんね」
「謝るくらいなら最初から言えよな!……てか、喉乾いた。飲みモンくれ」
「どうぞどうぞ♪」
いつもの調子を取り戻したシドに対して、状況に追いつけず戸惑う者が一人。
吸血鬼のゲーラだけが、訳がわからないという風に二人を交互に見ていた。
「……何だ?何でリーダー嬉しそうなんだ?」
ゲーラの隣にいるビーナが、ケリィと同じく嬉しそうに笑いながら、彼に答えた。
「シドさんが理解して下さったからですよ。私達が敵ではないと」
一息ついた後、シドは改めてケリィに問う。
「何で、俺とセラを攫ったんだ?」
セイバーズに敵意や害意が無い事は理解した……既に大体の予想はつくが、確認はしたかった。
「私達に協力して欲しいからだよ。セイバーズに加わって貰いたいんだ」
「いいぜ」
シドは即答した。予想通りだったからだ。
「やったね、歓迎するよ!ようこそ、セイバーズへ!」
「これからよろしくお願いします、シドさん!」
素直に喜ぶケリィとビーナ、唖然とするゲーラとファル、無言でシドを見るコア。
「本当にこんな奴仲間にすんのかよ⁉︎」
我慢ならず意を唱えたのは、ゲーラだ。
「何?ゲーラは反対なの?」
「こんな弱っちぃ奴要らねェだろ‼︎」
(……弱っちぃ、だと?)