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ヒトヒト物語

第1章 清らかな水の王国


ファトムス王国───中心街


「賑わってるなぁ……!」


金色の瞳を輝かせながら、旅の青年・シドは感嘆の声を漏らした。

この国に入ってから十数分、大通りを走る馬車に揺られ、辿り着いた中心街。

市場は多くのヒトで賑わい、彩り豊かな装飾の輝きと、料理の食欲をそそる匂いに自然と心が躍る。


(先ずは腹ごしらえ!)


シドは市場に並ぶ店に、目移りしそうになるのを抑えて、取り敢えずの食事を摂ろうと歩き出した。

食堂か酒場があれば、どんな店だろうと直ぐにでも飛び込みたいくらいに腹が空いている。

しかしその前に果物屋を見つけてしまい、誘惑に負けリンゴを一つ買ってしまった。

ついでに腹ごしらえの出来る場所を聞こうと、リンゴを齧りながらシドは果物屋の店主に話しかけた。


「この辺にある飯屋で、オススメの所あったら教えて欲しいんだけど」

「あぁ、それなら、この通りをまっすぐ行ったらある、赤い看板の酒屋がオススメだよ。美味いし、安い。……ただ、ガラの悪い客が居る事もあるから、行くなら気をつけた方が良いよ」


シドは店主に礼を言い、再度足を進めた。

ガラの悪い客が気にならない訳ではないが、シドの中ではそんな事より食欲が勝る。既にリンゴもなくなった。

そして程なくして、シドは赤い看板の酒屋に辿り着く事が出来た。

待ちに待った腹ごしらえの時に、シドは胸を躍らせながら酒屋の中へと入って行った。




果物屋の店主の言葉通り、酒屋で出された料理はどれも美味だった。今しがた食事を終えたシドは、満足げに一息つき、残りの酒を喉へと流す。

ファトムス王国の酒が美味い事は、入国する前から知っていた。なにせ国の名産品である。


「この国が豊かなのも、酒が美味いのも、精霊様のお陰なんだよな〜」

「その通り!我が国の守護精霊、カエルラ様のご加護によるものさ」


シドの呟きは、隣のテーブルで飲んでいた中年の男三人組のうち一人に拾われた。

中年の男は、明らかに酔っている真っ赤な顔で、シドへ話しかける。


「旅の人かい?」

「ああ。ユーブラから来たんだ」

「あそこも良い国だが、俺から言わせりゃこの国はそれ以上さ。なにせ、カエルラ様の加護があるんだからな!」


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