第5章 ♡甘い快楽と苦い花
「美味しいっ......!」
『でしょー?
ふふっ、お口に合ったようでよかった♪』
2人で自室に戻ると、すぐに花臣が食事を持ってきてくれ、恐る恐る料理を口にする。
すると、想像の何十倍...いや、何百倍もの美味しさに
心の底から笑顔がこぼれる。
「すごいです...っ!
こんな、美味しいお料理、
本当に花臣さんが作られたんですか?」
『そうだよー♪
料理は得意って言ったでしょ?』
幸せそうに料理を口に運び続けるめるを見ながら、
花臣もまた、幸せそうに微笑む。
「本当に本当に美味しいです...!
ありがとうございます!
しかもなんていうか...家庭の味っていうか...
私の口に合って、ほっとするというか...
とにかく、なんだか意外です!」
大金持ちの時環家三男の作った料理と聞き、
どんな浮世離れした豪華なものがでてくるのだろう...
庶民の私でも味を理解できるのだろうか...などと少し不安に思っていたら、
驚くほど身近な、庶民的な、
そんな料理がでてきてほっとする。
ーほかほかの白米に、甘酸っぱい梅干し。
身がほろほろの、よく味が染み込んだぶり大根。
豆腐と葱と里芋が入った、
温かく奥深い味わいの味噌汁に、
さわやかで優しい味わいの小松菜と鰹節のおひたしー
どれも1度は食べたことがあるような
そんな身近なラインナップだが、
そのどれもが今まで口にした同じ料理で
断トツの美味しさを誇っていた。
温かく、優しく、真心のこもった、家庭の味。
めるが小さい頃から欲しかった、けれど手に入らなかった温もりが
そこにはたくさん詰まっていた。
『え?......あー、ごめん。
せっかくの食事のお誘いだもん。
もっと豪華なのを期待しちゃったよね...
こんな感じのでごめんね?』
「そんなことないです...!
とっても美味しいです...!
本当に、本当に、美味しい...
美味しいです...!」
無意識に涙がこぼれ落ちる。
そんなめるの姿を見て、花臣はぎょっと目を見開く。
『ごっごめん...!
どうしたの!?なんか、ダメな味だった?
それとも、アレルギーとかもってたりっ...』
「あ!ご、ごめんなさい!ちがうんです!
なぜか、自然と...その、
美味しくて...本当にっ、美味しくて...」