第5章 この灯火が消えるまで[平和島静雄]
本当は生きたいのだと。本当は、目の前で告白をしようとしてくれている愛しい彼の隣でこの世界を見ていたかったと。自らの"死"を受け入れたはずの心が、覚悟が、簡単に揺らぎ始めてしまった。
「待ってください」
私は表情が見えないように俯き、冷静な声を出すように務める。
「…あの日、折原さんが言っていたように私の命はあと1年です。私はその事を受け入れているんです。だから…だから、あなたの想いを受け入れてしまったら私の覚悟が揺らいでしまう」
身勝手でごめんなさいと続けようとするが、それを遮って静雄さんが声を荒らげた。
「お前の本心はどうなんだよ!?余命を受けれたってそれを覚悟したって…そこに雪音の本心はないじゃねぇか。そこにあるのは"諦め"だ」
「わかってる!そんなの…でも諦めるしかないじゃない!!」
そう。諦めるしかなかった。借金返済もおわっていないのに、そこへいつ退院できるかもわからない闘病と治療費。
「俺は雪音に生きてほしい。生きて、俺の隣にいてほしい」
「となり…?」
「ああ。…その、費用は俺もできる範囲で手伝うから」
「ダメです!これは私の問題で…」
「なぁ雪音。俺にも手伝わせてくれねぇか?もうお前は独りじゃないだろ」
そういって私の手を優しく握ってくれた静雄さんの手は大きくてとても暖かかった。込み上げてくる何かを感じ、視界がぼやける。
"もうお前は独りじゃない"その言葉は確かに私の心に響いた。最初こそいい目は向けられなかったもののいつの間にか私を受け入れてくれていた粟楠会の人達。しかし、そんな中でも私は知らずに孤独を感じていたのかもしれない。
「しず、おさん…わた…し、いきたい…」
「おう」
「いきて…あなたのとなりに、いたい…!」
「おう。改めて言うが、俺の恋人になってくれるか?」
「っはい!」