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第5章 この灯火が消えるまで[平和島静雄]


「ごめん、なさい。今まで私の気持ち押し付けてしまって」
だから、これが本当に最後。身勝手な私の、最後の想い。
「平和島静雄さん。私は、あなたのことが…一人の人として好き"でした"」
「お前――」
「事務所まで送ってくれますか折原さん」
これ以上ここにいたら、彼の前にいたら泣いてしまうと感じ、静雄さんに背を向けて折原さんの手を取った。


《静雄side》
クソノミ蟲野郎が天霧雪音の秘密とやらを暴露した日から1週間が経った。
あの日から街中を歩いていてもあの聞き慣れた声が聞こえることは無かった。以前なら鬱陶しいと思っていた事も、こうして急になくなると違和感を感じる。
(ノミ蟲が言ってたことが本当なら末期ガンってやつなのか)
あの時見せられた痩せ細った腕、ガンだった事実、そして残り1年という命の期限。
こうして急になくなってようやく分かった。俺はいつの間にか天霧…雪音に、惹かれていたのだと。
本当は背中に飛び付いてくるアイツの行動を否定しつつも嫌な感じはしなかった。だから無理に振りほどいたりもしなかった。
「…トムさんすんません。ちょっと外出てきます」
「お?おお…上手くやれよ」
「…うっす」
職場を後にし、静雄は粟楠会事務所まで走っていった。


(身体がダルい…力もあんまり入らない…)
こんな状態で本当に1年は持つのだろうか?些か疑問である。
そして思考は仕事へと移る。今日は体調不良で休ませてもらっているが、明日はちゃんと仕事をせねば…暖かい布団に顔をうずめゆっくりとまぶたを閉じた。
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