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第5章 この灯火が消えるまで[平和島静雄]


そのあと一言二言交わし、粟楠会事務所で私にあてがわれた部屋に戻る。
(ああ…静雄さんに会いたい…)


あれから数日、私の仕事はデスクワークが殆どになった。恐らく四木さんなりの気遣いだろう。
(なんか迷惑かけちゃってないかな)
私が外仕事に行かない分、それは他の人たちで補っているから事務所にはいつもより人が少ない。
「すみません、休憩とってきます」
そして席を立ち、事務所を出た。


街中をフラフラ歩いていると、金髪とバーテン服の長身男性をみつけた。間違いない彼だ。
声をかけようとするが、それは黒いファーコートを着た男に邪魔された。
「やぁ粟楠会のお嬢さん」
「…折原さん何の用ですか」
「アハハ!冷たいなぁ…キミ、まだシズちゃんに余命の事言ってないんだ?」
「…言う必要ないでしょう。私のこの想いは一方通行なんだもの」
「ふーん。あ、シズちゃーん」
「ちょ、折原さん!?」
何か言う気だ。嫌な予感しかしない。
「クソノミ蟲野郎…!」
折原さんの声でこちらに気づいた静雄さんはすごい形相でこちらを見るが、私がいることに気づいて表情を若干緩めてくれた。
「シズちゃん、この子の秘密をひとつタダで教えてあげる」
「は?秘密??」
「そう。この子はね――」
「折原さんやめ…っ」
「――余命1年なんだ」
「余命…だと?」
ああ、なんでこうも上手くいかないんだろう。静雄さんにだけは知られたくなかったのに。
「ち、違うの!折原さんの状態だからっ」
しかし腕を掴まれ、グイッと前に出される。
「冗談?この痩せ細った腕見て本当に冗談って信じられる?」
正論を言われ押し黙る。事実、最近は少量のゼリーを食べるので精一杯な状態なのだ。
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