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第5章 この灯火が消えるまで[平和島静雄]


これは私自身が決めたこと。
手術を受けるとしたら、手術費・部屋代・入院中の食事代、その他もろもろの治療費…それなりの額がかかってしまう。それに、私の場合はガンだから抗がん剤治療もしなくちゃならないだろう。
今いる粟楠会だって、もともとは亡くなった両親が残していった借金返済のために高校も通わず務めている状態だ。そこにそんな高額な金がかかることをすれば、更に額が増えてしまう。…まぁ、粟楠会の人々には良くしてもらっているが。それに何より、入院してしまうとその間は静雄さんに会えなくなってしまう。それだけはどうしても嫌だった。
「すみません先生。でも、やっぱり私は手術を受けることはできません。余命があと1年程度なら、それまで精一杯やってこの命を終えたいんです。こんなことで立ち止まってなんて居られない」
「そう、ですか…。では、せめて激しい運動は控えるようにしてくださいね。それから走るのも極力避けてください」
診察室から出てくると、赤林さんが椅子から立ち上がった。
「お嬢どうだった?」
「うん。このまま手術を受けないなら持ってあと1年から2年半くらいだって」
「…そうか」
それきり赤林さんは何も言わず、私も何も言わず。会計を済ませて病院を後にした。


帰宅してから四木さんに今回の検査結果を報告した。
「そうか…」
「だから…私も残りの期間で完済できるように努力します」
「…本当にいいのか?もう平和島静雄に会えなくなるんだぞ?」
「っ…いいんです!もともと、これは私の一方通行な想いでしたし。むしろうるさいのが居なくなって清々するかもしれません」
冗談交じりにそういうけど、四木さんの難しい顔は変わらず。きっとこの人は見抜いてるんだ。これが私の本心じゃないこと。
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