第5章 この灯火が消えるまで[平和島静雄]
「しーずーおーさんっ!!」
「あ"?」
池袋某所、人混みをするりと抜けて愛しい背中に飛びつく。
しかし、いつものバーテン服に身を包んだ彼は不機嫌さMAXなドスの効いた声を発する。
「またお前か天霧」
「んもう!天霧なんて堅苦しいから雪音でいいっていうか雪音って呼んでくださいって言ってるじゃないですかぁ!」
相変わらず不機嫌さMAXだが、そんなのはお構い無し。
「うるせぇ!離れろ暑苦しい!!」
「いやですー」
そうやって嫌がる素振りをしながらも、無理やり引き剥がしたりしない。彼がその気になれば簡単に振り解けるのに。
「私は貴方が好きですよ」
「そーかよ。俺はお前が嫌いだ」
"嫌い"その言葉に少しだけ胸が痛むけど、それには気付かないふりをする。
「お嬢ー、そろそろ病院行かないと時間に遅れちまうぞ」
私が静雄さんとじゃれていると、背後から杖をつき片足を引きずってゆっくり来た赤林さんに注意された。おっといけない。
「病院…?」
「ごめんなさい静雄さん!また今度お話しましょ!!」
深く聞かれる前に静雄さんの背から飛び降り、待ってくれている赤林さんの元へ小走りに駆けていく。背後で制止の声が聞こえた気がしたけど、私は聞こえないフリをした。
「――――率直に申し上げます。ガンの進行が少し速くなっていました。長く持ったとして、あと1年から2年程が限界でしょう」
「そう、ですか」
告げられた私の命の期限。
前回検査した時は2年半から3年くらいって言われていたが、私自身が思っているよりも事態は深刻らしい。
「…本当に手術はお受けにならないのですか?」
「はい」