第2章 出会い
平日の午前。米花町。
本来なら幼児教育を受けているはずの幼児、絢瀬葵は人通りの少ない公園のベンチに座り、憎たらしいほどの青空を見上げていた。
生前、というよりは前世、だろうか。そこで警察庁警備局警備企画課に所属していた葵の記憶は潜入先の船で肺を撃たれ海に落とされ所で途切れている。
その記憶を思い出したのは2週間前、27歳だった女は5歳の幼児になっていた。
混乱を極めた葵だったが、有難いことに悩む時間は有り余っていた為、翌日には受け入れることが出来た。
少なくとも、ここが米花町であるということを受け入れるよりも遥かに簡単だった。
友人に語られ過ぎて人物と大まかな内容は覚えてしまった名探偵コナン。その世界で今世の葵は生きていた。
調べようにも友人が語る部分しか記憶していないので時間軸などはわからず。
そもそも調べる以前に母である女に捨てられたらしい。
母は若くして葵を身ごもったが、それを父親になる人物に伝えられた時には既に5ヵ月が過ぎていた。だが父に責任をとる気は一切なかったらしく、こっぴどく振られ捨てられた。その時にはもう堕ろすことは出来なかったと、以前憎らし気に自分の子供を睨みながら話していた。
産まれてすぐに養子にでも出せばよかったものをと思うが、そこまでは思い至らなかったのだろう。
母曰く、葵の顔は日に日に父に似てきているらしく、我慢の限界を迎えた母が新しい彼の元へ向かうのを見送ったのが一時間程前。それから此処で一人これからの事を考えていた。
はぁーっと大きく息を吐き空を仰ぎ見た葵は眩しさに瞳を細めた。いつの間にか太陽は真上で燦々と輝いていた。
両親と親戚がいなかった母がいなくなった事で葵は5歳にして孤独を手に入れてしまった。
しかし、此処で嘆いていても何も始まらないと取り敢えず今持っているものを確認しながら夜までに交番にでも行こうと座っていたベンチから立ち上がり公園から歩きだした。
『えっと、ハンカチとタオルでしょ。後は、チョコとお水と絆創膏』
罪悪感からか、純粋に餞別なのか、母に持たされた薄汚れた黒猫のリュックに入っていたのはそれだけで、やはり今日中に交番で保護してもらう必要があるとリュックを前に抱える。
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