第3章 すたーと
カチャカチャと聞こえる小さい音に目を覚まし、時間を確認すると7時を15分過ぎたところだった。
うーんと伸びる。彼は今日どちらの仕事なのだろう。いや、どちらにせよ大変なことに変わりはないか。なんて欠伸をしてベッドから下りる。ドアを開けた葵はワイシャツにグレーのスラックス姿の安室に固まった。
「おはよう葵ちゃん」
『お、はよう。透くんスーツだ』
「ん?あぁ、今日はどうしてもスーツで来て欲しいってお願いされてるんだ」
なんでだろう…スーツを着ている方がより幼く見える。不思議だ。
ご飯すぐ出来るから、顔洗っておいで。と笑う彼に呆けたまま洗面所に向かった。ご飯を食べる頃には彼を観察していたが。
ワイシャツとスラックスには皺一つなく、テーブルの隅には青いネクタイが置いてある。同じくグレーの2つボタンのジャケットがソファの背もたれ掛けられている。
目の前にある朝食を安室をちらちらと観察しつつ食べ、コップに入った牛乳を飲み干し手を合わせた。
食器を洗い終えた彼は捲っていた袖を下ろし、ネクタイを締めジャケットを羽織る。
「それじゃあ葵ちゃん。お昼と夜のご飯は冷蔵庫に入れてあるからチンして食べてね。あと、誰が来ても玄関は開けないこと。それから、今日はおうちから出ないことを約束してほしい。出来るかな?」
靴を履いた彼が葵と目を合わせる。大丈夫!任せて!と頷き拳で自分の胸を軽く叩く。それに微笑ましいとばかりに笑った安室は、行ってきますと小さな体を抱きしめて部屋をあとにした。
鍵が閉まったことを確認して首の後ろに手を伸ばすと、やっぱり襟元には発信機らしきものが付いていてふはっと笑ってしまった。
今日、公安で子供をどうするか決めるのだろう。何処でベルモットが見ているかわからないから葵を安室から離すことも、大っぴらに護ることもできない。
こればかりは彼の帰りを待つしかないが、今日中に帰って来れないんじゃないかと早速暇になって床をゴロゴロと転がった。
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