第10章 邂逅と思惑
博士の持つ弁当に涎を垂らす元太に呆れつつ、お御籤を引くために場所取りを博士に任せた少年探偵団は細長い紙にそれぞれ一喜一憂していた。
「俺、吉だってよ!」
「歩美は中吉!」
「僕は末吉ですから微妙ですね…葵ちゃんは?」
「歩美が読んであげる!」
葵の後ろから御籤を覗きこんだ歩美が途端にわあと声を上げる。
「すごい!大吉!」
「あら、お揃いね」
『ほんとだ!』
「灰原さんも!うらやましいです!」
「俺のと取っ替えねぇか?」
きゃあきゃあと騒ぐ5人の後ろでコナンが手元を睨みつけていた。いつの間に盗み見たのか既に知っているらしい灰原が自慢するように大吉の文字をひらひらと見せつけている。
それを横目にして葵は自分の御籤を読み進めた。
仕事、取引
積極的に進めば順調。タイミングを遅らせると不利。
愛情、恋愛
現在は順調。ぐずぐずしていると横槍が入る。素直に進め。
健康、病気
今の状態を守れば無事。長引いているときは油断せず原因を確かめろ。
学業、試験
実力、精神共に申し分なし。
率直な感想を上げるならば、見ているのか。以外には見つからない。そうっと視線を離れた賽銭箱の奥に流した葵は静かに御籤をポケットに仕舞い込んだ。
「コレコレ!せっかく良いクジを引いたんじゃから、持って帰りなさい!」
思考の途切れた葵の耳に窘めるような声が届き、本殿へと縫い付けられていた視線が離れる。話を聞くに探偵団が御籤を結ぼうとしたのを老人が止めたらしいと理解すると、すうっと灰原の緑の瞳が細められた。
「じゃあ結ぶのは江戸川君だけかしら」
ふふんと顎を上げた彼女に苦笑した葵が横から覗き込もうとすれば、コナンは少し不貞腐れつつも見やすい位置に御籤をずらした。
凶と大きく書かれたそれの向こうに御籤を読む灰原が見える。その時、真っ白だった紙に影が落ちた。
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