第9章 兄と親バカと花見
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バタンという音と共に胡坐をかいた足に肘を付いて乱暴に頭を掻き、はああと盛大に溜息を吐き出した。まさかFBIとの密談に子供たちを連れていくとは思わなかった…が、考えてみればその密談相手も子供だったと更に頭を抱えた。
赤井秀一に扮していた男の素性が判明すれば、必ず協力者はFBIに接触すると踏んでジョディ・スターリング捜査官を張っていた甲斐があり日時の詳細を掴むことが出来たが、相手が小学一年生だと誰が思うだろうか。
コナンがFBIと親しいのは情報として勿論知っていたが、まさか協力体制にあるとは予想していなかった。毛利小五郎を操る少年にはまだまだ秘密がありそうだと認識を改め、腰を上げた。
「となると…」
子供たち…いや、葵を連れていく理由は一つ。FBIに保護、または護衛を頼むためだろう。組織の幹部であるバーボンと暮らす少女というだけで十分保護対象になる。それがカメラアイなら猶更だ。
しかし、組織というのは必ずしも一枚岩ではない。巨大になればなるほど亀裂がそこかしこに出来るものだと降谷は4年前に嫌というほど思い知らされた。
4年前、スコッチがNOCだとバレたのは信頼していた連絡員が組織の闇に憑りつかれ、捜査官こそが悪だと信じ込まされてしまったからだ。そして教え込んだのは他でもない警視庁の人間だった。
明らかになった危険因子は速やかに一掃されたが、その時には何もかもが遅すぎた。
彼の灯は消えた。
随分と脱線してしまった。何が言いたいのかというと、FBIに葵を利用しようと企む人間がいるのではないか、ということだ。
大体の諜報機関や捜査官は使えるものは何でも使う。勿論降谷とてそれに異論はない。だが、カメラアイの活用方法など限られる。未来ある子供に生涯消えない傷跡を残す…そんな使い方をすることはあってはならないのだ。
例え葵でなかったとしても、それを容認できるほど血も涙もない人間になるつもりはない。
だからこそ、警察庁でも彼女の力は降谷含め数人にしか知らされていないのだ。信用はしているが信頼は出来ない。
もし、葵がFBIの保護を受け入れてしまったら…。その時は申し訳ないが風見に動いてもらうことになるだろう。
彼女は日本を愛する降谷零の娘になるのだから。
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