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君がため

第2章 タイカ



 時雨は深くうなずき、目を閉じた。クロウは杖をかざし、呪文を唱えた。

 「闇の力を秘めし杖よ。我が名において彼の者の願いを叶えよ。クロウ・リードの名のもとに・・・」

 時雨の立っているところを中心にクロウの魔法陣が出てきて、時雨を包み込んだ。

 「あなたに幸多からんことを。」

 と、いう言葉とともにクロウは消えた。時雨が再び目を開けるとそこはいつもの病室だった。起き上がってもいつもの辛さはなく、願いがきちんと叶ったということを証明していた。かわりに時雨が握っていた虹水晶が無くなっていた。

 (よかった。もう耐えられる。早く行こう、彼らのもとへ)

 急いで荷物をまとめ、部屋からそっと抜け出した。そして人目がつかない場所まで来ると地面に手をかざし、

 『我が名は桜月時雨。我、月の力を宿し者。

  我が魔力を糧に我の行きたい世界へ

  対価は、この世界での私に対する記憶


  〝今行くから待ってて”

 と、唱えて姿を消した。


 もう彼女のことを覚えているものはいない


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