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Fortuna【ラッキードッグ1】

第7章 女神の軌跡(6)


「ちょっと、嫌なこと思い出して…」

「ヤなこと?」

「うん、ルキーノが……」


素直にジャンへ伝えることすら躊躇われて黙ると、額と額がコツンとくっついた。
目の前に見える金の眼差しが、真剣な色を帯びている。


「くすぐられた以外に、ルキーノと何かあったのか?」

「………かーわいー金髪のわんわんによろしく」

「は?」

「帰り際、ルキーノにそう言われたの、ジャンのこと…!」

「……ぷっ……そ、れで…ンな、不機嫌……っ、クク…!」

「笑いごとじゃないんですけど……ジャンはそんなこと言われて嫌じゃないの?」

「気持ちいくはねーけど、さ……トゥーナが俺の分まで怒ってっからいいや、あんがとな」


優しい声に…嬉しそうに笑うジャンの姿にルキーノの台詞なんてどうでもよくなりかけるも、やっぱり完全に忘れることは出来なくて。


「…もし、何かされそうになったら絶対に呼んでよね…絶対だからね!」


まだまだおさまらない不機嫌さを丸出しに唇を尖らせる。
そんなわたしの言葉と様子を見たジャンは、きょとんとしてから唇にチュッと軽いキスをした。


「……いや、なんで?」

「トゥーナの唇がかわい〜く尖ったから、キスのおねだりしてンのかと思って」

「そんなことシてません」


ニヤついたジャンから顔を離し、額をぺちっと叩いてやる。


「口が上手いのは知ってたけど、いつからわたしのことまで口説くようになったのカシラ…おねーさんは心配です」


少し前まで、わたしに対してはこんなことしなかったし言わなかったのに…。
イタリア男子だし女性に積極的なのは仕方ないけど、見境のない女っタラシにはならないでほしい。


「こんなに美人でかわいいオネーサマが身近にいたら、ある日とつぜん禁断の愛に目覚めてもおかしくないんじゃねーの?」

「綺麗なおねーさまなら、ジャンの周りには他にいくらでもいるでしょ。でも、遊びで人妻はもう駄目だからね」


相手も遊びだったし旦那さんにもバレなかったから良かったけど、やっぱり特定の相手がいる女の人とどうこうするのはよろしくない。
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