第3章 女神の軌跡(3)
そんなこと言われてもジャンの気配はその先にあるし……見張りがいるとか、ますます嫌な予感しかしない。
「邪魔だからどいてくれる?」
「ナメてんのか、くそガキ。痛い目みたくなけりゃさっさと消えろ」
あああ、メンドくさいなぁ。
実体化してると使える力も限られてくるんだよね。
ただの囚人としてなら誰にでも接触しやすいし、ジャンと話しても怪しまれないかなって思ったんだけど。
こんなときにどう対処するかは考えてなかった、どうしよう?
「うーん…………もういいか」
ジャンみたいに頭の回転早いワケじゃなし。
自分のことを周りに隠しながら一人でジャンのことを守ろうなんて、無理な話すぎた。
こうなったらベルナルドに助けを借りたときのように、牽制しつつみんなに協力してもらいましょうか。
そうと決まれば、急がないと。
「アッディーオ」
男たちに向かって手を振ると、実体化を解いて元の姿に戻る。
パサッと中身を失った囚人服が地面へ落ちて、男たちの野太い悲鳴がその場に響いた。
あーあ、これはマジソン刑務所七不思議――7つどころじゃ足りないかもしれないけど――に新たな噂が加わるかもしれない。
『ま、いっか』
騒ぎを横目に見ながら一瞬でジャンの隣へ転移すると、ぞろぞろとこの場を去っていく四人の囚人たちの後ろ姿が目に写った。
あの4人ってもしかして……尋ねようとジャンの顔を見て思わず笑ってしまう。
ごめん、いきなり音もなく横に現れたらびっくりするよね、うん。
ジャンの金色に煌めく瞳を探るように見つめ、いつもと変わりないことにホッとする。
なにかに傷ついた様子も服装の乱れもない。
よかった…とりあえずは大丈夫そう、セーフ!
『ねぇジャン、あの人たちって全員CR:5の幹部?』
「……」
答える代わりにひとつ頷いたジャンの腕に、ぎゅっと捕まる。
わたしは運命の女神・フォルトゥーナ。
ジャンの幸運の女神。
大丈夫、きっと、すべて上手くいく。
性別を男に変えることなくそのまま実体化すると、震えそうになる喉を叱咤して声を張り上げた。
「Hellow!(ねぇ!)」
突然響いた部外者の声に、四人の男たちが一斉にこちらを振り返る。