第12章 新人
陽が昇ってから少し時間が経った頃―――
「っ!?」
何時もと違う寝具に包まれ、
久し振りに熟睡していた太宰は、隣にある筈の温もりが無くなっていることに気付き、覚醒した。
ガバッと上半身を起こして確認するが矢張り、無い。
嫌な予感が一瞬で脳裡を埋め尽くす……。
太宰は慌ててベッドから出て寝室を後にした。
が―――慌てることなど無かったのだ。
寝室を出てすぐ。
リビングから見えるキッチンに、その姿はあったからだ。
太宰は安堵の息を洩らすと同時に、不機嫌な顔を作ってその人物に近付いた。
「おや。お早う、治」
「………お早う」
声を掛ける前に此方に気付いた人物が笑顔で挨拶をする。
それに返して、後ろから抱き着いた。
「如何したんだい?そんな不機嫌な顔して」
「一緒に居るって云ったのに隣に居なかった」
「ああ、そういうこと」
不機嫌の理由を聞き終えるとその人物―――
太宰紬はやれやれと笑った。
「食事の仕度をしていただけだよ」
「傍に居られないなら食事なんてしなくていいもん」
「いいわけないでしょ。可愛く云ったって認めないよ」
ぎゅーっと抱き締めて云う兄の言葉に呆れながら頭を撫でる紬。
その仕草に―――
実際に一緒に居ることを実感できた太宰は安心して、更に甘えるように引っ付く。
「………何それ」
そして、安心のお陰で戻ってきた正常が捉えた異質なモノに疑問を抱いて、口にした。
四角の箱に可愛らしく詰め込まれたオカズ。
何処から如何見ても弁当だ。
しかも、子供向けの。
―――所謂『キャラ弁』と云われる類いのモノ。
「勿論、嫌がらせだよ」
ある程度、想定できていた答えを紬は満面な笑みを浮かべて述べた。