第9章 絶句
夜―――
「「全く……」」
中也は森の中に来ていた。
「ここ数年で最低の一日だよ」
「何で俺がこんな奴と……」
其所にはもう一人居た。
先刻まで一緒に居た人物と瓜二つの存在。
「……彼奴が嫌がった理由はコレかよ、ったく」
「!?」
中也のぼやきを正確に聞き取った太宰がバッと中也の方を見た。
「如何いうこと?もしかして紬が来る予定だったの?」
「だったらなんだってンだよ」
「何で代わったりしたのさ!」
「……。」
中也は横目で太宰を見る。
「彼奴が行きたくねえって駄々こねたからだ」
「!?」
太宰が目を見開いた。
「元を辿れば太宰。手前が紬を置いていったりするからだろうが」
「勝手なことを云わないでくれ給え。私が何度紬を連れ出そうとしたか君には判んないでしょ」
「知らねぇわけ無えだろ。彼奴も彼奴で手前が今までに寄越してきた手紙やら書き置きやら、凡て抽斗に仕舞ってやがるからな」
「!」
先程、妹にみせた呆れ顔を今度は兄にもみせる。
「教えといてやるよ太宰」
「……。」
数歩前を歩いていた中也はピタッと止まってゆっくり振り返る。
「この四年間、紬は趣味の自殺すら其方除けだ。本気でやってることと云やあ『手前を避けることだけ』だ」
「そんなこと判っているよ」
太宰の眉間に皺が寄る。
「判ってンなら話しは早ェ」
そんな太宰をみて中也はハァ、と息を吐いた。
「太宰。手前は、本気で彼奴と接触する気はあンのかよ」
「!?」
太宰は大きく目を見開いた。
答えは『是』の筈だ。
なのに、だ。
なのに、、、
「……っ!」
声に、言葉に。
その思いがそれらに形成されない。
中也に返事が出来ないのだ。
中也は続ける。
「彼奴が手前に会いたくない理由なんざ手前が一番理解するところだろーが。詰まるところ……手前も『同じ理由』で『避けてる』ッつー事だろ」
「違っ!私はっ………!」
滅多に見ることの出来ない太宰の焦り顔に、流石の中也も少し驚く。
「私は――………」
中也に指摘されて愕然とする太宰。
中也は動きを止めた太宰を置いて再び歩き出したのだった。