第22章 想歌
ぐりん、と部下達を見る。
「他意もある」
「「?」」
ニヤリと笑っているその笑顔は獲物を狙う肉食獣のように獰猛だった。
「コイツは『俺達』のだ、手を出すなーーーってな」
「「……。」」
嗚呼、矢張り。
部下は確信した。
頭の良い上司ーーー太宰紬の立案での作戦。
基本的に『行動』するのは中也だ。
それ以外でも作戦の立案、指揮を執る立場に中也はある。
ポートマフィアの言い習わしの1つ
『太宰紬を女として見た人間は必ず死ぬ』ーーー
矢張り、噂なんかではなく、
『双黒』がもたらしたものだったのかとーーー。
「手前等はそんな気、起こさねぇって信じてるがよォ」
「「勿論です!!」」
元気の良い返事にフッと笑う中也。
部下達は知ってしまった。
幾ら仕事が出来て、信用を重ねようとも「太宰紬」に関わり過ぎるだけで死に直結してしまう事を。
中也と同じ地位にいる筈の紬に、自分達のような専属の部下が居ない理由を。
中也が紬を甘やかしていた理由………
自分達の上司には、既に春が来ていた事をーーー。
きっと紬も同じ気持ちなのだろう。
以前、寝ているときに入室した際は即座に起き上がったというのに、今は穏やかな寝息を立てて眠っている。
違いは「中也が傍に居るか否か」だけなのだからーーー。
部下達は何時もと違って穏やかな空気を纏っている上司をもう一度だけ見て、仕事に戻ったのだった。