第1章 離別
横浜の街を見下ろす丘の上、海の見える墓地。
黒い喪服を着て紬は来た。
目的である真新しい墓標に置かれているのは
自分が手に持っている花と全く同じ花―――。
「先客が居たようだね」
そう云って花を供えようとして。
共に供えてあった一枚の写真に気付き、手に取った。
写っているのは何時ぞやに撮ったモノ。
もう二度と無い、4人の笑顔。
写真を元の位置に戻して紬は少し寂しそうに呟く。
「私はね、織田作。本当のところ、君が首領に呼び出しを受けたあの日から…こうなることが想定の中にあったのだよ。あの時点で治に話していれば君を救う手立てはあったのかもしれない」
風が突如として止んだ。
「探りをいれようとしたことが首領に見付かって、君達と引き離されてしまった」
紬は目を伏せたまま続ける。
「でも君のお陰で、治は生きる価値を見出だせたみたいだ」
花を供えて、立ち上がる。
「これで良かった、なんて云ったら怒るかい?」
ビュオッ!
風が、太宰に向かって吹く。
「うふふ、冗談だよ。こんなことで君が怒らないことなんか判ってる」
太宰紬は目を閉じて。
「でも…………淋しいなぁ」
暫くそこから動かなかった―――。