第1章 離別
ポートマフィア本部―――
とある一室に神妙な面持ちで向かい合う2人。
一人は座って、もう一人はその前に立っており目を伏せている。
シン………
保たれていた静寂を先に破ったのは立っている方の人間だった。
スゥ、と目を開けて云った。
「治を切り捨てるお心算ですね」
「……。」
座っている人間は、机に両肘を付いて手を組んだまま動かない。
しかし、眼だけは違った。
鋭い眼光が立っている人物を捕らえている。
立っている人物は溜め息1つ着いて、話を続けた。
「恐らく治は行方を晦ます、早ければ今すぐにでも」
「……。」
漸く、座っている人物が動き始めた。
「私のとった選択に間違いなどないよ」
「それを云うために態々私を呼び出したんです?」
「君を呼んだのは『私のとった選択で彼がどう動くか』を中てて欲しかっただけだよ」
「……。」
ふぅ、とひと息吐いて。
立っている人物は一礼した。
「それならば任は達成したようなので失礼します。外出から戻ってきたばかりなので、しなければならないことも山のようにある」
「待ちなさい太宰君」
太宰と呼ばれた女性は、制止した人物に背を向けたまま立ち止まった。
「君は―――如何する心算かな?」
その言葉に応じてフッと笑う。
「此の事態の最中、態々『私だけ』に遠出の任が下ったことの理由を漸く理解したところです。結論は今すぐに出せませんが現時点では『如何もしません』」
此処まで云って、座っている人物に向き直る。
「尤も、兄と共に去る―――そうならない為の外出だったのだという解釈が誤りでなければ、ですが」
失礼します、と相手の返事を待たずに太宰は退室していった。
「流石だねぇ、太宰兄妹は」
座っている人物はフッと笑って目の前の書類を手に取った。
『異能開業許可証』
その紙を見て、目を伏せる。
「三刻構想―――か」
自分しか居ない部屋で静かに呟いた声は、妙に響いて消えていった。