第19章 策動
道路をタイヤが滑る音がする。
『あーあ。早くこの服脱ぎたいのに』
『靴は後ろだ』
『あ、気が利くねぇ』
ゴソゴソと動く。
『外套も持ってきてはいるが、別にそのジャケットでも良いンじゃねぇの?』
『スカートなんて滅多に履かないから足がスースーして落ち着かないのだよ』
『女が云う科白じゃねェな』
『うふふ。治と入れ替わってるかもよ?』
『抜かせ。手前等の区別くらい見れば判る』
『本当、不思議と中也だけは騙せないものねぇ』
バサリと布が落ちる音が響く。
『そんな事より中也』
『ンだよ』
『何で双黒の任務だってのに秘書を連れて迎えに来たの?』
『あ?何だって良いだろ、別に』
『ははー。人に任務を代わってもらったはいいけど多忙すぎて2人きりになる時間は取れなかったと』
『うっ、うるせー!』
『ぷぷっ。直ぐ顔に出るんだから。此れだから単純男は』
『~~っ!黙ってろ糞女!』
『いや~青春だねぇ!成長と同じで遅すぎるけどいいじゃあないか!』
『喋るなって云ってンだろうがァ!』
紬の笑い声と中也の怒鳴り声が行き交う。
云い合いは暫く続いた。
『………作戦は』
長い溜め息の後に中也が話題を変えたのを期に、紬も揶揄うのを止めた。
車を走らせて約1時間弱。
そろそろ目的地に着くのだろう。
紬はうーんっ、と唸った。
否。ただ背伸びをしただけのようだ。
『作戦暗号ーーー『カンテラの灯と酒宴』は?』
直ぐに答えた。
『はァ?此処は『死んだ火薬』か『風の族』だろーが』
『中也。私の作戦立案が間違っていたことは?』
『チッ。人使い荒い作戦立てやがって』
『うふふ。私は今日、書類とにらめっこしていただけの誰かさんと違って忙しかったのだよ』
『普段は全く仕事しないくせに、今日一日フルで働いたからって何云ってやがる』
『中也の我が儘を快く訊いてあげた私に対して善くない発言だなぁ』
『タダで利いてくれてりゃすんげぇ感謝したっつーの』
『40万弱なんて安いもんでしょ』
『……まあ、手前の嫌がらせにしてはな』
キッ。
車が停まったようだ。
『さァて。行くとするか』
『ふふっ』
バタンと1つ音がして、続いてもう1つ音がする。
ーーー双りの任務が始まった。