第4章 再会
ポートマフィア首領――森鷗外
この界隈で名を馳せる黒社会の頂点に立つ男の前に立って、紬は何かを読んでいた。
「……。」
読み終えたのか。
紬は一息着くとその紙を森に渡す。
「却説。君は如何思う?」
首領宛に届いたソレに書かれていた言葉は
『太宰死歿せしむる時、汝らの凡る秘匿公にならん』
ただ、此れだけの文章。
「此方がその気だから、彼方もこの気なんでしょう」
「ほぉ」
紬の言葉を腕を組んで聞き始める。
「連日の失敗の報告は私の耳にも入るところです。まあ、相手は『武装探偵社』。すんなり事が運ぶなんて私は思ってませんけど」
「……。」
「然し、芥川君はそう思わない。焦り故に、最終作戦に出る………ここまでは想定通りです」
「続けて」
「その作戦の為に、この件の事を一番詳しく調べていた彼は不在する。情報を得るには…単身で乗り込むには丁度良い好機となる」
やや間があって、森が返す。
「君は『彼』が掴まっている事を知っていたのかね」
「私ならそうしますから」
肯定の意を述べる。
先日、紬は芥川と話す機会があった。
その去り際に云い放った言葉――
『まあ善いよ。『君』が治に勝てるわけ、無い』
紬の言葉に感化されて、間違いなく太宰を捕獲しに行くことは判っていたのだ。
そして、自分の兄がこの機会を利用することも想定通りなのか。紬に動揺は見られない。
森はやれやれ、と息を吐いた。
「それで私が呼ばれた理由はなんです?その手紙通り、『五大幹部会』の手配でも?」
「否、幹部会は『開かない』――そうだろう?」
「……。」
紬はふぅ、と息を吐く。
「まあ、間違いなく逃げられますからね」
「ふふっ」
「では、私を呼び出した理由は?」
紬が問うと森は立ち上がって、云った。
「いや、知らないと思っていたからね。教えてあげようと思っただけだよ」
「……。」
首領が何を考えているのか判らない。
そういう意の視線を寄越して紬は一礼して部屋の入り口に向かう。
「折角だから会ってあげたら如何だい?」
「……。」
扉から半分出たところで云われて、少し停止し。
「そうですね」
小さい声で云った。