第14章 双子
此処はーー……僕は……確か………ーーーー
「!?」
ガバッ!
突然、浮上した意識の元。
敦は勢いよく身体を起こした。
見慣れない部屋に敷かれた布団で眠っていた様だ。
「僕は……そうだ!」
「目が覚めたかい?少年」
「!?」
太宰さん、と。
漸く回り始めた脳から記憶を呼び起こし心配事を口にする前に声を掛けられたのだ。
慌ててその方向を向く敦。
記憶が途切れる最後に聴いた声ーーー。
以前、一度だけ聴いたことのあるものだと気付けなかったのは体調が優れなかったから、だけではないのかもしれない。
「解毒剤が効いたとは云え、未だ無理するのはお勧めしないよ」
「解毒剤……」
敦の寝ている布団の横に座った人物の顔をまじまじと見る。
「貴女は……」
「先日、名乗った筈だけど?」
「いやっ、そうですけど……何故、此処に……此処は太宰さんの部屋じゃ………って太宰さんは!?」
漸く、本当に知りたかったことを口に出す敦。
「治なら隣室で眠っているよ。君とは違ってなかなか薬が効かないから苦労したけど、漸く落ち着いて眠ったところだ」
「良かった……」
太宰とそっくりの。
少しだけ高い声で紡がれた言葉を信じて敦は安堵の息を吐いた。
「おや。確かめずにすんなりと信じるんだね」
「え?」
「私が何者か忘れてしまったのかい?」
ニッコリと笑って云う、目の前の女性の顔をぱちくりとした顔で見る。
何故、そんなことを訊くのだろうか?
「いや、赤の他人の僕を助けたのに身内の太宰さんを助けないなんてことあるんですか?」
「!」
敦の回答に少し目を見開いて、直ぐにクスッと笑った。
「君は愉快だね。治が気に入ってるわけだ」
「え?」
そう云ってすくっと立ち上がる女性
こと太宰紬。
「治は兎も角、君には解毒剤代分きっちり働いてもらうよ」
「マフィアに荷担する気はありません」
「うふふ。威勢が良いねぇ」
フッと笑い台所の方へ向かう紬を目で追って、敦は布団から出る。
先刻、隣室にいると聞いた太宰の確認のために動く。
本当に解毒剤を投与してくれたのだろう。
記憶が飛ぶ前の痛みも目眩も嘘のように無くなっており、足取りは軽かった。
ソッと襖を開ける。
眠っている太宰を確認すると敦は直ぐに部屋から出た。