第9章 虹の欠片
【智】
「あ、翔くん、いらっしゃ〜い」
精一杯爽やかに出迎えたつもり。
でもきっと、翔くんの爽やかさには
到底敵わないんだけどね〜♪
何しろ、
爽やかが服着て歩いてるみたいな…
……あれっ?
なんか今日は変だな…
慌てて目を反らせたけど…
俺なんか変なことしたっけ?
「翔くん?」
不思議に思った俺は、
翔くんの顔を覗き込んだ。
すると彼は、パッと切り替えたみたいに
いつもの笑顔になった。
「智くん、今日は出掛けないの~?」
……?
なんか、作ったような笑顔に、なんだか訳のわかんない、意味不明の質問…
「…翔くん…具合でも悪いんじゃ…」
額に手を伸ばすと、慌てて距離を取るように俺から離れた翔くん…
「悪くないよ!なんで~?おかしな智くん…」
「翔ちゃ~ん、カルピス入れたわよ~。
こっち来て飲んで🎵」
「おばさん…カルピスって、俺のこと、いつまでも子ども扱いなんだから…」
翔くんは俺からさっさと離れて、ダイニングの方に行ってしまった。
……俺、なんか、翔くんに嫌われるようなこと、したっけ??
「智も、こっち来て翔くんと一緒に飲みなさいよ~」
「あ、うん…」
首を捻りながらも、
心当たりが全くないし、考えるのは止めて、俺も翔くんの隣に座った。
母さんとのおしゃべりに、
いつものそつのなさと、爽やか過ぎる笑顔で対応する翔くんの横顔を、そっと盗み見ながら、俺はカルピスを飲んだ。
……それにしても…
なんかさ…ドキドキするんだけど…
……
俺は、ゴクゴクと美味しそうに甘めのカルピスを飲む、
翔くんの喉仏に見惚れていた。
…いつも間にか、すっかり男っぽくなった幼馴染に、
俺は胸がザワザワと乱されて仕方なかった。