第8章 追憶の日々
そりゃあそうだよな…
言い方を替えれば、親父を巡って争った仲。
そんな相手の子どもを、
心の底から愛せるんだろうか??
そんな俺のもやもやを決定付ける出来事があった。
小学校の参観日の日。
クラス懇談会が終わる母親を、智と一緒に校庭で待っていた。
「智~、潤〜、帰るよ~」
俺たちに向かって手を振る母親の元に、二人で駆けだした。
先に着いたのは足の速い俺の方。
その時…
大きな犬が、俺たちに向かって走って来た。
その大きさは、もう脅威でしかなく…
俺はもう既に母親のところまで来ていたけど、智はまだ離れていて…
てっきり側にいる俺は安全だと思っていた。
母さんが守ってくれるから…
だけど……
母さんが血相かいて駆け寄って抱き締めたのは、
智だった。
悲鳴をあげながら、
俺の横をすり抜けて、
母さんは智を守った。
母さんの声を聞いて、
先生たちや残っていた人たちが、
何事かと校舎から顔を出したり、
助けに来てくれたけど……
その中で、
俺はポツンとひとりで突っ立っていた。
………ひとりぼっちで……
周りの大騒ぎが、
だんだん聞こえなくなる。
今まで俺が、大切だと信じて
守ってきたものが、
実はそうじゃなかったんだって……
大事にしていたのは、俺だけだったんだって。
頼んでもいないのに、
そう答えを貰ったようだ……
何てことはない。
近所の飼い犬が逃げたして、
子どもたちと遊びたくて飛び付いてきたんだ。
飼い主も慌てて追い掛けてきて、
事なきを得た。
智や他の子どもたちも、
大きい犬と追いかけっこなんかしていたけど。
夕暮れの校庭で、
俺は砂で作られた小さな城が、
無情にも、足元から崩れ去っていくのを感じていた。